この先は神様がごろごろしているんだから!
あれ? と思ったのは二面の始まりだ。
なんだろう画面端で動いてるのは、と思った魔理沙が雑魚処理をしつつ下段に下りて確認したら、秋姉妹の姉がひっかかってた。
(えぇ……なんで……?)
ひっかかってたっていうか彼女はフレームのところで好き勝手くつろいでいる。
魔理沙が「邪魔になるからどいて欲しいんだぜ……?」と低姿勢に切り出すと「あ、もう、勝手に入ってこないでよ!」とプンプン怒られた。
思春期の娘さんの部屋に親が勝手に入っちゃったような雰囲気に、魔理沙は戸惑う。
もしかしたら自分が悪いんだろうか、そんな思いも芽生えてきてしまった魔理沙はとりあえず放置して、適当に画面をスクロールさせてたら消えるんだろうと中ボスまで進んでみたが全然消えない。
それどころか秋姉妹の妹の方が画面右下から芋を食いながら乱入。
ちょっ、二人は勘弁して、と魔理沙が慌てて駆け寄ったが「この先は神様がごろごろしてるって言ったでしょ!」と姉と同じようにややキレ気味に答えられた挙句、どっかりと画面下に尻を落ち着かされてしまった。
ごろごろってリラックスって意味なのかよ。
魔理沙は神様の迫力に強く言えなかった、そして霊夢と一緒に来なかった事を今更ながらに後悔した。
秋姉妹の主な活動は画面下で漫画を読んだり焼き芋を分け合ったりしているだけなのだが、魔理沙のボムの使用を見ると目の色変えて「チキンボム、チキンボム!!」と喚きたてるので、魔理沙にはもう霊撃も打てない。
この時点で半泣き。
ボスに出会って全泣き。
厄神様も画面上部でごろごろしていた。
「ふわぁぁぁあ……」
登場時の台詞が欠伸なんて今まで体験したことなかった反応で、魔理沙も次の言葉に困る。
「だ、台本どおり喋ってくれよぉ」
「ふん、人生なんてのは台本の無い悲劇よ……」
「な、なんでそんなにやさぐれてるんだぜ? 私と楽しく弾幕ごっこしようなんだぜ?」
「毎日人間の為に厄集めてんのよ!? そりゃやさぐれるっちゅうに!」
「きゃっ、ごめんなさい!」
「……で、何しに来たの?」
「えーと、台本ではあんたが二面のボスであり、ここで私と戦闘になるはずなんだぜ」
「あんたぁ?」
「厄神様が二面のボスでありまして、ここで私めと戦闘になるご予定でして――」
「あ、秋姉妹おひさしぶりー!」
「おひさー、雛ちゃん!」
「おひさー!」
もう嫌だ、ボタボタと服に涙が落ちた。
こんなカオスなシューティングしたくない、霊夢早く助けに来てくれよ。
「ちょっと、ちょっと、泣かないでよ、何も取って食おうってわけじゃないんだから。はい、ハンカチ」
「あ、ありがとう、なんだぜ」
「そうねー、どうしようかな……あー、あれやってよ、魔理沙さんの代名詞、あれ見せてくれたら戦ってあげてもいいわよ」
「あー、アレ見たいね」
「見たい見たい」
どうも神様達の身振り手振りから察するに、魔理沙にマスタースパークを要求しているらしい。
見せたら戦ってくれるの? と尋ねるとOKサインが出た。
良かった、これで進められる。
さすがに三面に入ったら秋姉妹もついてこないだろう。笑顔が戻った魔理沙はポケットからミニ八卦炉を――八卦……炉を………。
「すみません、八卦炉を家に忘れてきてました……」
「ああん!? マジ!?」
取り囲んだ神様達から一斉にブーイング。
使えねえ奴だな、とか、忘れ物が許されるのは小学生までだろ、とか散々だった。
だぜ語尾で気丈に頑張ってきた魔理沙の目にも涙が浮かぶが、いつもそっと拭き取ってくれる霊夢は今日はいない。
一分くらい批難が続いたが、それもようやく緩やかになってきて、魔理沙は顔を上げた。
「いいわよ、もう通りなさいよ」
「え? で、でも戦わないとステージクリアーにならないし」
「お子様はこれだから困るわね、タイムアップってのがあるのよ。画面上部の数字が減っていってるの見えるでしょう?」
言われて初めて魔理沙は上を見た。
本当だ、大きな数字が徐々に小さくなっていっている。
魔理沙は安堵した。
この神様も根っからの意地悪というわけではなさそうだ、流行のヤンデレという奴なのかもしれない。
「失礼しました、今度はマスタースパーク持ってきますので」
「頼むわよ、本当に」
最後に頭を下げて、魔理沙は二面を後にした。
三面に入ったら画面下に三人いた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
「何か?」
「おかしいだろ!? 通りなさいとか言っといて、どうして付いてきてるんだぜ!?」
「何かはまってみると、この枠居心地良くてさぁ……」
「ねぇー、ぴったりって感じで」
「やめてくれよ! 帰ってくれよ! もうたくさんだよ! 一人にさせてよ!」
「一人にさせるなんてそんな寂しい事……あ、ほらほら、敵、敵」
いい加減弾がたまっていた。魔理沙も被弾はしたくないので画面の掃除に入る。
ひと段落して神様達の様子を伺うと、寝転んだまま黄色い声を上げながら七並べとかやってた。
「やぁん、7止めてるの誰ー?」
7は最初に並べとけよ……!
っていうかゲームの進行と私の信仰点を止めてるのは誰だよ……!
「あ、信仰点気になる? 秋パワーで60万点くらいにいじっとこうか?」
絶対ろくな結果にならないと思った魔理沙は断った。
もう完全に無視してやろうと決め込んだが、自分達に弾がぶつかるたびに「やんっ」とか「あんっ」とか悩ましい声を上げる神様達が気になって弾に集中できない。
魔理沙が起死回生の食らいボムで体勢を立て直すも「チキンボム、チキンボム!」って神様煩くて、これのどこがだよ!!
「げげ、人間――――と神様!?」
いつの間にか中間地点に来ていたが、河童もさすがにびっくりしたのか物凄い勢いで逃げ出した。
あまりの速度にコレ追いつけるのか、という不安が魔理沙に湧いたが、それでもごろごろされなくて良かったと、下を確認したらなんか増えてるし!?
「にとりん、おひさー」
「おひさー、楽しそうなことやってるねー。私も混ぜてもらっていいー?」
「どうぞ、どうぞ、あ、これチーカマ」
「どうもー」
「でも、にとりんどうすんの? ボス不在ってのはさすがにまずくない?」
「大丈夫、代わりにケロちゃん置いといた」
「それ、ばれないね!」
ばれてるよ!!!
「あー、丁度いいところにプレイヤーが来た。よっこらせっと」
新しい声に驚いて振り向いたら、ラスボスがそこにいた。
画面端に寝転んで引っかかっていた。
「このまま六面まで運んで!」
もう突っ込みの言葉もなかった。
酒を煽り出した神様を突っ込めば突っ込むほど数が増えそうな気がして、魔理沙はステージをクリアーすることだけを優先させてしゃかりきに前に進んだ。
例えこの奥にケロちゃんがいても、それをにとりだと思い込んで倒そう、そうして四面に進もう。
それしかない、そして四面の滝で引っ掛けてこいつら全員流そう。
それがダメだったらもう自らゲームオーバーになっ「チキンボム、チキンボム!!」うるせえっ!!
「ケロちゃん風雨に負けず!」
にとりだと信じ込もうとしたのに、出会い頭にこの自己紹介だ。
魔理沙は敢えて目を合わせないようにして、ただ、ボスなんだぜ? と一言だけ聞いて「アイム、オーケー!」という見当違いの返事を聞いてからコールドインフェルノを設置して画面下部に戻った。
「でも、凄いわねぇ、本当にケロちゃんって風雨に負けないのかしら?」
「負けないよ、どんな強い雨も風も平気だよ!」
「じゃあ、そこの滝に飛び込んで見せてよ」
「え、滝は違っ――」
「何だその程度、静葉がっかりしちゃう。土着神の頂点もそんなもんかぁ……」
「う」
「……飛び込める?」
「と、飛び込めるともっ!」
うぉぉと雄叫びを上げながらケロちゃんは滝に飛び込んでいった。
……ケロちゃんはいなくなった。
何もない場所目掛けてコールドインフェルノが火を噴いている。
神様達はやんや、やんやと大喝采。
ボスがいなくなってしまった。
誰もいない場所でコールドインフェルノが火を噴いている。
神様はやんや、やんやと大拍手。
魔理沙は滝つぼを覗いてみた。
飛び込んだ神様が、あーうーとか言いながら下流に流されていくのが涙で光って見えた。
もうダメだ。
クリアーすら出来ない。
「――そこまでよっ!!」
良く通る声が画面中に木霊した。
面の皮の厚すぎる神様達も、この声にははっとなって沈黙する。
画面右からすっと入ってきてくれたのは――霊夢。
来た、ついに来たんだ! 待望の霊夢が、私の霊夢が! 当たり判定の小ささに定評があるホーミングの霊夢が!
「よくも魔理沙をいじめてくれたわね!」
魔理沙は今までこれほど霊夢が有難いと思ったことは無かった。
すまない、私が不甲斐ないばっかりに、こんな私を助けに来てくれて、霊夢、あんたは本当にヒロインなんだな。
いつもいつもゲームのアイコン私が取ちゃってごめんな。
魔理沙は霊夢に感謝し、このカオスを取り除いてくれる真の神様を拝んだ。
霊夢は心配しないでと微笑んで、神様達がいる画面下に向かっていく。
「何よあんた達こんな画面端に集まって、こんな画面端で、なんて……あふぅ、落ち着くぅ」
……画面下に入った霊夢は五秒でごろごろし始めた。
「こんなリラックス空間、霊夢耐えられない〜」
魔理沙は霊夢を甘く見ていた。
奴は中立の巫女なのだ、武器も何もかも投げ出して寝転り、神様の和みと調和するのに何の障害も持たない。
それどころか場のリーダー格として収まっている。
お終いだ、この世界はお終いだ。
魔理沙は泣いた。
「じゃあ、私の当たり判定の小ささをみんなに見せちゃおうかなー?」
「やった、いいぞー!」
「にとりー、のびーるアームお願いね……はい、あの飛んでくるレーザーをここから動かずによけまーす!」
「えー! その位置じゃ絶対被弾するよー!」
「さーて、どうかなー?」
「きゃー! 怖い怖い!」
「じゃーん、ほーら、だいじょうぶでしたー!」
「すっごーい! 超マジックー!」
魔理沙はもう何も考えずにただ泣いた。
SS
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