戦闘妖精・氷風 パイロット版

 

 

 


 様様なものを愛し、ほとんどに裏切られ、多くを憎んだ。
 愛しの冬にも忘れ去られ、彼女は孤独だった。
 いまや心の支えはただそれのみ、
 口うるさい、だけど決して裏切ることのない幼稚な妹分、
 天翔る妖精、チルノ、氷風。


 幻想郷の一角に突如出現した巨大なスキマ。
 それは、未知の妖怪ヤクモが幻想郷侵略用に造った超空間通路だった。
 幻想郷の住人は、その通路の向こう側へ――は行けなかったので、仕方なく瀬戸際で敵を迎撃すべく幻想郷空軍(FAF)を設立。
 それから30年以上たった現在も、ヤクモとの戦争は続いている。
 その終わりが見えない戦いの最前線に、一人のパイロットがいた。
 彼女の名は深井レティ。
 信じるものは愛機「氷風」のみ。
 決して感情に左右されない氷のようなチルノ・ドライバー。
 味方に黒幕と呼ばれる虚無的なパイロットとスーパー妖精チルノ・パーソナルネーム「氷風」の存在が、膠着状態を維持していた戦線に微妙な波紋を投げかける。
 この戦いに本当に必要なのは、妖怪か? それとも人間か?
 かつて幻想郷が体験したことのない熾烈な戦いが、いま始まろうとしていた。



チルノ「……で、なんであたいがレティを背中に乗せなければならないわけ?」
レティ「こら、あなたはただの戦術戦闘偵察妖精、道具に過ぎないんだから、文句を言わない。それと、『チルノ』は種族名で『氷風』が個体名だからね。
氷風(チルノ)「種族名って……どうせ、あたいしかいないのに……
レティ「あ、ほら、ヤクモよ。IFFの応答がないわ。対空戦闘用意」
氷風 「うう……RDY BARRAGE、RDY ICICLE FALL、RDY PERFECT FREEZE――」

 深井レティが所属するFAF・特殊戦第五飛行戦隊の任務は、味方を見殺しにしてでも必ず生還すること。

レティ「撃墜された貴部隊員の生存者なし。こちら氷風。任務終了。帰投する」
美鈴 「あいつは死神、いや黒幕だ」

 非常な任務を遂行するパイロット・レティが信じるのは、己の愛機・氷風のみ。
 感情を排し、他者とのコミュニケーションを持とうとしない彼女にとっては、幻想郷すら生命をかけて守るべき対象ではなかった。

妖夢 「そんなことでは幻想郷は滅びてしまうぞ」
レティ「それがどうした」

 しかし、そんな彼女にも一時のロマンスがあったり、なかったり。

香霖 「森近霖之助です」

 でもすぐに死別。

香霖 「レティ、ぼくは……人間だよな」
レティ「あたりまえじゃない。森近大尉……香霖」

 進行する戦況の中、氷風はレティの予想を超える潜在能力を見せる。
 レティはそんな氷風を手なずけようとしたが、氷風は彼女の命令をエラーと判断し、自在に幻想郷の空を舞う……

大妖精「高速ミサイル二、背後から急速接近中」
氷風 「なんか乗ってるのが一人増えてるー!?」
レティ「彼女はフライトオフィサよ。それよりも逃げられないわ」
氷風 (振り落としてやる……)

 ヤクモはそんな氷風のみを狙い、人妖を直接狙ってはこなかった。
 だがヤクモがその戦略を変更したとき、氷風はレティを守ろうとはしなかった。
 氷風はレティや人妖を守る武器ではなかった。

氷風 「つーか、あんた邪魔! 重すぎ!」
レティ「やめろ、氷風!」
チルノ「あたいはチルノだ!」

 氷風はパイロットを不要と判断し、幻想郷の空に放り捨てる。

  DE KOORIKAZE ETA 2146.AR.

 自分を取り戻したチルノは博麗神社へ帰投予定時刻を告げ、ちょっぱやで飛ぶ。

チルノ「疲れた。帰って寝よう。大妖精がチキンブロスにされたりしたけど、任務達成率一〇〇パーセントでいいや」

 そして戦闘妖精・氷風あらためチルノはそのねぐらへと姿を消す。明日の戦いにそなえて。
 幻想郷につかの間の静けさが戻る。

 

 

 

 



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2005年5月23日 日間

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