お嬢様急行2007

 

 

 

 今日こそは大丈夫かと思いながら、胸の前に手を構えて私の世界一美しいポーズに酔いながら、実績のある言葉を放ってみた。

「れみりあーうー」


「…………ここでも駄目か」

 今日も間延びしてしまった、何故だか解らないが最近れみりあうーが上手く発音できなくて困っている。
 それどころか最後の方で誰かが和音でハモってきている気がする。
 霊夢あたりは「素晴らしいわレミリア!」などといって私を楽団か何かのように褒め称えるのだが、私としてはどうしても納得がいかない。
 つい悔しさで壁にパンチをして自室に穴を開けてしまった。
 隣で掃除していたメイドが突然のトンネル開通に目を丸くして驚いた。
 しまった証人だ、咲夜に怒られてしまう。
 私はとりあえずメイドを縄で縛って妹の部屋に放り投げてから、この不思議な現象について再び頭を悩ませた。
 
「やはり何者かが私に隠れてハモっているとしか考えられないな……」

 しかし、どこだろう?
 私は三日前からこの犯人を紅魔館の威信をかけて全力で捜索しているのだが、まるで見つからないのだ。
 屋根裏から地下室、図書館に屋上、仕舞いには門番の胸の谷間まで調べたのに、全く手がかりは得られなかった。 
 かなりステルス性の高いやつが紅魔館に忍び込んでいると見える。
 すると、河童か……。
 犯人としての条件は満たす、私はこれまでの作品で信頼と実績を積み重ねてきたから皆が私を崇拝しているはず。
 犯人像に当て嵌まるのは風神録で新しく来た新参どもだけなのだ。
 ……む、待てよ? 
 私は最近常に背後にある大きな帽子に気がついた。
 この大きさならひょっとして中に誰かが隠れることが出来るんじゃないか?
 盲点だったわね……! 帽子が常に私についてきている時点でここを怪しむべきだったのね……!

「お前が犯人だな!?」
「とんでもない、わたしゃケロちゃんだよ」

 違うか……。

「お嬢様、朝食の用意が出来ました」

 咲夜が私を呼びに来た。
 壁時計を見ると時間ぴったりだ、咲夜は常に時間ぴったりで瀟洒である。
 そんな咲夜だからこそ私も信頼してスケジュールを預けることが出来る。
 私は席についてハムエッグを頬張りながら、今日の私のスケジュールを問うてみた。

「今日は日曜なので昼夜逆転のスケジュールとなっております。朝食を食べた後はレッドマジック号で丘までサイクリング、大体十一時頃に紅魔館に戻られるご予定です。その後ティータイムを軽く挟んで昼食。昼からは暇つぶしに紅魔湖を一周して妖怪を一掃、霊夢の神社を冷やかして、午後八時から咲夜と結婚式となっております」
「うむ……」

 一応訊いてみるだけであまり頭に入ることではない。
 予定はあくまで未定であり約束は破る為にあり、破壊とでたらめの隙間にティータイムがやって来る、というのがベストな悪魔ライフだ。
 このあたりは小悪魔にもきつく教えているのだが、やれやれ、あいつはまだ小物過ぎて守れないようだな。
 …………。
 あれれ?
 さっきのスケジュールおかしな点がなかった?
 
「咲夜ー?」
「はい、何でしょう?」

 私はとりあえずフォークを置いて咲夜の顔色を伺ったが咲夜の気配に変わりなし、どうやら私の杞憂であり大したことでなかったようだ。
 私は咲夜をもういいと言って追い払った。 
 聞き返すのは格好悪いからな。
 聞いてないと思われるし。

「最近、食が細いようですが……」

 ドアの手前で振り返って咲夜が心配そうな顔を見せたが、元々小食なのよ、と返すと、黙って出て行った。
 なかなか鋭い奴め、殆ど変わらぬように食べていたつもりだがお見通しか。
 だが、理由までは知らないだろう。
 私は朝食を終えて口をゆすいでから、辺りに人がいないのを確認して、そっと鏡の前まで歩いて口を大きく開けた。

「うん、そろそろこの乳歯も抜けそうね」

 白くてつるつるの八重歯がぐらぐらしている。 
 およそ五十年ぶりのことだ、このまま生え変わらなかったらどうしようとか一時考えていたが、やっぱり乳歯、きちんと生え変わるらしい。
 ただ、このことが人に知られてはまずい。
 この間、チルノの歯が生え変わって紅魔館の屋根に大妖精付き添いで投げにきたのを、散々二階からガキ扱いしてしまったから今更私も生え変わりましたなんて言えることではない。
 もうだいぶぐらついてきたから、これなら今日にも抜ける。
 あと少し黙って押し通せばいいだろう。
 そう思った私がオレンジジュースの残りを席まで取りに戻った――その時だ!
 長方形の食卓テーブルの上に、小さなメッセージカードが刺さったナイフが飛び込んできた!
 カードの表には快盗Sと書かれてある!

「事件の予感だわ……!」

 私は急いでナイフからカードを引き抜くと、その文面を読み始めた。


『こんや 12じ にゅうしを いただく』

 
 …………。
 読んでからナイフの柄を見て犯人を知った私は、席を立って咲夜の自室に向かい、そこでマスクとマントで変装の準備をしている咲夜を人差し指一本で壁まで押しやって問い詰めて「マジすみませんでした」という言葉を一分足らずで引き出した。
 事件早期解決。 
 緋色の脳細胞と呼ばれる名探偵レミリアの成せる業である。
 黙っとけよ、ゼッタイ黙っとけよ、と最後に念を押しておいたから不安もない。

 ………。

「さぁて、サイクリングの時間がきたわ!」

 天気は曇り、絶好のサイクリング日和がやってきた。
 私は何もなかったような顔の咲夜と一緒に倉庫からレッドマジック号を引き出した。
『裂怒本気駆号』
 車体のペイントもカッコイイ、本気と書いてマジッと読む、それは外の世界で大流行だという当て字なのだが咲夜はもちろんパチュリーの評判も上々だ。
 フランも褒めてくれた、小悪魔も顔を歪ませながら褒めてくれた、美鈴は……。

 私は空を見上げた。
 まだ星の出ていない空を……。

「美鈴……」
「大変です、お嬢様!!」
「何よメイドA。人が感傷に浸っている時にいきなり飛び込んできて全く名前もなければ空気も読めない奴ね」
「お嬢様、お嬢様、それどころではないのです、本日のコースを下見に出ていた斥候メイドより大変重要な報告があります!」
「あーうーの犯人でも見つかったって?」
「いえ、チ、チルノが……チルノが本日付で自転車の補助輪を外した様子で……!」
「何ですって!?」

 驚いて私は自分の自転車を見た。
 チルノとは同期だ、つい先日まで大妖精が後ろから支えていないと乗れなかったあいつが……もう補助輪を外したというのか……!
 馬鹿な、そんなことがあっていいわけがない!
 私より先に補助輪を外すなど……!!

「事実なのね……?」
「間違いありません、すり傷は増えておりましたが、一人ですいすい乗っております」
「ぐっ……認めないといけないか、チルノの才能を」
「……」
「……」
「……お嬢様?」
「外せ、咲夜」
「え?」
「この補助輪を外せぇ!」
「何を言っているのです!?」
「外しなさいと言っているのよ、私に逆らうの!?」
「だ、駄目です! 出来ません! そんなことをしたらお嬢様がこけてしまうっ!」
「こ、こ、ここけないわよ!」
「既に足が震えているではありませんか!」

 咲夜との戦いが始まった。
 言葉のみの応酬だったがこれは戦いだ、打ち負かすか打ち負かされるか、一瞬の油断も出来ない。
 戦いは三十分にも及んだが「こけても泣かない!」という私の主張がついに相手を上回り、咲夜は涙ながらに屈服した。
 立場上、私は咲夜の涙を拭いてやることが出来ない。
 だから泣くな咲夜。
 私を信用しろ。
 3mくらいなら自信がある。

 咲夜が補助輪を自転車から外す。
 私は自転車のスタンドを降ろして自転車に跨った。
 いつもより世界が遠く恐ろしく見えた。
 咲夜、メイドA、そしてケロちゃん、そこで見ててね、こけたら助けてね。
  
「トゥーイージー!」

 自らを鼓舞してペダルを踏んだ、かなり進んだはずだ、だが倒れたところは精々50cm先くらいだった。

「ぐぁぁ!」
「お、お嬢様!」

 咲夜が駆け寄ってきた、傷は深い、膝をすりむいた、並みの妖怪なら泣いているだろう大怪我だ。
 だが私は負けなかった、咲夜の『痛いの痛いのとんでけ〜』を断って自力で立ち上がる。
 背後のケロちゃんから応援がとんだ。
 まだいける、今の感触ならあと2mは頑張れる、やるぞ、私は今日中に補助輪を卒業してや――! 


「あ、レミリア、みーっけ! なーんか門番いないから勝手に入ったけどいいよね? ねぇ、見て見て、あたいの新車最強にかっこいいでしょ!? ぱーへくとぱすかるって名前でね、ほらベルもついてるんだ。あたいねーもうだいぶ乗れるようになっちゃった! 大ちゃんもレティも褒めてくれたよ! そうだ今度レミリアにも教えてやるよ。ブンブーン!」
 

 私はとっても素敵な笑顔をチルノに見せてから、全力でグングニルを投げつけた。

―――――

「レミィ、ついさっきメイドの一人が辞めたいと言ってきたのだけど、心当たりは?」
「無い」

 そんなことより、と私は話を切り替えて今朝のサイクリングの話をした。
 話の中の私は最高にかっこ良く、つい尾ひれが付いて天まで登ったとか嘘こいちゃったけどパチェは首をだるそうに上げ下げするだけで何も突っ込んでこなかった。
 こいつが人の話を真面目に聞く態度を示したのを一度も見たことが無い。
 今も本を読みながらだ。
 そのくせ話だけはきっちり覚えてるみたいで油断は出来ない。
 私が借りた百二十円を二年間も覚えていてこの間改めて請求された時はさすがの私も踏み倒した。

「ああ、レミィ。宇宙に蹴り飛ばされた美鈴から写真が転送されてきているわ」
「え、何よそれ早く言いなさいよ」
「うん……小悪魔、紅茶より先に、今朝送られてきた写真を準備しなさい」
「あいあいさー」

 私は小悪魔が持ってきた白黒の大きな写真を見た。
 惑星らしいでこぼこの地面の上で、美鈴が何かを食べながら笑っていた。

『宇宙を泳いで変な星に着きました。ここまで大変だったけどこの星のタコはとても美味しいです。名産みたいなのでお土産に持って帰りますね!』

 美鈴……違う……。
 それ……火星人や……。
 
 私もパチェも小悪魔も同じ顔で首を横に振っていた。

「まぁ、美鈴は置いとくとして私の話をするとね」

 惑星間問題に発展しそうな話題は避けて、私は自分の話に戻った。
 紅茶を飲みながらしばらく一方的に喋りかけていたのだが、パチュリーの反応も薄いしもう飽きたなぁというところで、私は口の中に奇妙な違和感を覚えた。
 何かが足りないような……あっ。

 冷や汗が腋から横腹に落ちた。 
 私は正直狼狽していた、まさか歯が抜けているのに気付いていなかったなんて……!
 急いで取り戻さなければと席から立ち上がる。
 誰かに見つかって、これはお嬢様の乳歯だなんて結論を出されてはカリスマに関わる。
 それに幻想郷は日本的な風習を大切にしているので、乳歯が抜けたときは下の歯は屋根に、上の歯は縁の下に、つまり私の歯は縁の下に投げ込まなければいけない――って縁の下ってどこだよ。
 紅茶とクッキーを持ってきた小悪魔に「悪い」と一言断ってから私は全力で庭に向かった。
 落ちてるとしたらここの芝生しか考えられない。
 こけた衝撃で取れたのだ。
 急がねば……!

 ……着いたら、咲夜が四つんばいで芝生を探していた。

「咲夜……」
「誤解です、お嬢様。咲夜はお嬢様の乳歯を誰かが拾ったらまずいと思う一心で」
「そんなチルノも騙せそうもない言い訳はいいから、まず鼻血を拭いて、それからなんとしても誰かに見つかる前に私達で歯を取り戻すのよ」
「はいっ!」

 そこからは長く辛い道のりだった。
 私達は砂漠に落としたコンタクトレンズを探す気概で芝生という芝生を探したが、なかなか目当ての物は見つからなかった。
 咲夜も段々と疲れて動きが鈍くなってきている。
 とりあえず「ほら、生えかけの歯」とちょこんと出た新しい歯を見せてやるとすぐに元気になるので問題はないが、代わりに失血死が心配だ。

「おかしいですわね。これだけ探しても見つからないということは――か、かわいい!」
「会話の最中に萌えないように。ところでさっきから花畑のあたりで即席ステージが作られているようだが、どうした? 今日はプリズムリバーでも来るのか?」
「さぁ……私は聞いておりませんが」
「むう」

 疑問に思った私がステージの様子を伺っていたら、メイドの一人がステージの上に登った。
 あいつは朝方一緒にいたメイドAじゃないか……なんだ、あの名無しに群集を満足させる特技があるとは思えないが。
 しかしそんな私と逆に、会場の期待はどんどんと高まっている。
 一体何が始ま――。

「お嬢様の八重歯ー! 五千円から〜!」

 私はあまりの衝撃に芝生に膝を突いた。
 咲夜もあまりの衝撃に倒れ込むフリをしながら私に抱きつこうとしたので霊撃で弾いた。
 しかし、何故だ……!
 拾われたのはまだしも、どうしてあれが私の乳歯だと解ってしまうのだ、フランの可能性だってあるは「申し訳ありません、酒の席でぽろりと」お前かよ!!

「七千円!」
「九千円!」
「ちょ、ちょっと、凄い勢いで上がってるじゃないの、なんで人の乳歯なんて欲しがるのよ、紅魔館のメイドは揃いも揃って変態なのか!」
「お嬢様ったら、まるで私まで変態みたいな言い方を……」
「お前がナンバーワンだよ!!」 
「白さ固さ輝き幼さと四拍子揃ったお嬢様の八重歯はどんな宝石よりも価値があると思うのは当然のことですよ」
「分かったから早く何とかしろ、あのオークションをメイド長権限で止めて来い!」
「委細承知」


「二十五万円!」

 オークションは止まった。
 止まったけどそういうやり方じゃねえと私は落札して喜ぶ咲夜にアルゼンチンバックブリーカーを決めて芝生に沈めた。

―――――

「レ、レ、レ、レミリアだーっ!」

 予定通り昼食の後は、霧の湖周辺の妖怪どもを蹴散らしに出た。
 スカーレットデビルを常時発動しながらの飛行は大変楽しい。
 逃げる奴を追うまでもなく、新興の妖怪達がそんな横暴許すかとばかりにじゃんじゃん向かって来るのでそれらを虫けらのように落としてやるのがたまらない。
 あ、いかん、虫けらにリグルが混ざっていた。

「大丈夫?」
「うぅ、ひどい、冬篭りの支度をしているだけなのに、なんてことを」
「大丈夫ね」

 やれやれ、知り合いを落とすと霊夢が煩いからね。
 ああ、そうそう霊夢だ。あそこの神社の縁の下を借りるとしましょう。
 私はそう決めると、紙で包んだ小さな歯をポケットの中に確認してから博麗神社を目指して飛んだ。
 何事もなく着いてつまらなかった。

『有限会社 博麗』

 あれ、なんか変ね……。
 首を傾げた。
 鳥居につけられたおかしな看板を見上げながら、確かここは神社だったわよねと誰に聞かせるともなく呟いてみる。
 宗教法人ならわかるんだけど、有限会社って何だろう。そもそも資本金の前にお米の量が有限っぽいのだけどこの会社……。
 私が鳥居を潜って神社に近づくと、霊夢が血相を変えて走ってきて私を呼んだ。

「レミリア! 大変なのよ、神社の賽銭箱に悪霊が取り憑いちゃって!」
「ええ? 賽銭箱に悪霊なんて憑くものなの?」
「もう困っちゃってるのよ……! この賽銭箱の中の悪霊があらゆる賽銭を撥ねつけるせいで、賽銭箱にちっともお金が貯まらなくなっているの!」
「それはいつもの事だろ」
「騙されたと思ってお金を投げてみなさいよ、すぐ分かるから!」
「そう、じゃあ五円で」
「ばっか、五百円にしなさいよ。あんまり小さいと弾いたお金を見つけられなくなったらどうするのよ!?」
「そうね、じゃあ五百円で……」

 ――ちゃりん。

「まいど♪」

 いきなり喧嘩になった。

「だって有限会社になったんだもん! がめつくいくわよ! そもそも誰もお賽銭を入れてくれないのが悪いのよ! 返さないわよ! これは返さないわよ!」

 かなり本気で喧嘩していたのだが、駄々っ子みたいに暴れる霊夢が徐々に可哀相になってきて、仕方なく私が折れた。
 霊夢、なんかちょっと痩せてる気がする……。
 きっと冬が来て大変なんだろう。
 今度パーティにでも呼んであげましょう、と呼びかけるとすると、霊夢はマジ泣きして喜んでいた。
 
「それじゃあ、ちょっと縁の下を借りたいのだけど、いいかしら?」
「いいわよ、好きに使っちゃって!」

 私の理由も聞かずに霊夢は五百円玉を握り締めて飛び立っていった。
 たぶん買い物に出たのだろうけど、霊夢になら話しても良かったのになーと少し残念な気持ちで縁の下に近づいた。

『な……懐かしい……』

 予想外の声にびっくりして、まさかパパラッチ天狗が見張っていたか!? と辺りを見回したのだが、どうやら声は背後の帽子から聞こえているようだった。
 しかもその後、帽子がにょきにょきと伸びてきて――いや、帽子が伸びたんじゃなくて帽子の下から足が生えて胴が出てきて、最後には人の形をした何かがそこに立っていた。

「わたくし、土着神をやっている諏訪子と申しますわ」

 腰を折り曲げて名刺を出してくるので、あ、丁寧にどうもと言って受け取ったのだが、ここで衝撃の事実が発覚した。
 洩矢諏訪子……って。
 ケロちゃんじゃないじゃないの! こいつ私を騙していたのね!
 畜生! 諏訪子でググったら蛙より先に可愛い象が出てくるから一度やってみるといいわ!

「……え、あなた神様なの?」
「元、神様というか」
「もと?」
「実は私、神社を追い出されてしまって……」
「何でまた?」
「この神社神様二人もいらなくない? という私の冗談に始まって神奈子――あ、これもう一人の神様なんですがそれと大喧嘩になってしまい、負けてしまったのです」
「あらあら」
「大体じゃんけんグリコって勝負方法なのに、グーで勝った時にグーテンモルゲンで進むのはおかしいと思うんだけど、なんか今更かなーと思って言わなかったら負けてしまいました」
「別に本当に出て行かなくてもいいじゃない」
「ところが勝った神奈子があんたほどカリスマのないEXボスはいないとかふざけたことぬかしやがるので、うるさい昭和臭と切り返したらオンバシラでホームランにされてしまいましたの」
「それはお前が悪いわ」

 だけれどもケロちゃんは折に触れ神社を思い出すのだと言う。
 もう帰らないと決意したのに、夜になると涙が溢れてくるのだという。
 ここで神社を見てしまって、いよいよ我慢が出来なくなってしまったらしい。
 私は可哀相にと泣いているケロちゃんの背中をさすってやった。
 その際に「カリスマよりも……人気がある方が救われるわよ」と耳元で囁くと、何か吹っ切れたような顔になって泣き止んだ。

「レミリア・スカーレットありがとう。私はやっぱり洩矢の神様。神奈子に謝って戻ることに決めましたわ」
「それがいい」
「紅魔館のカオスな日々、とても楽しかった。あんなカオスなところは外の世界にも無いと断言します」
「遠慮はいらないわ、いつでも来なさい」
「うん」

 短い間だったが、悪い奴じゃなかった気がする。
 ケロちゃんは私に再度お礼を言ってから、暮れ始めた曇り空に向かって上がっていった。
 ってかなんでケロちゃんなんだろう、スワちゃんとかじゃ駄目なんだろうか。
 
 一人になった私はれみりあうーと言ってみたが、正しい発音になったというのに少し寂しかった……。

―――――

 紅魔館にも一人で帰る。
 いつもなら日傘を持った咲夜が一緒なのに、今日はいない。
 不意に咲夜が見たくなって、自室をノックしてみた。

「お帰りなさいお嬢様、戦果はいかがでした?」

 咲夜は笑顔で迎えてくれた。
 あーうーが解決したわ、と話したら自分のことのように喜んでくれた。
 咲夜は常に私のことを第一に考えてくれる、私は従者に恵まれた、咲夜は当主に恵まれたと思ってくれているだろうか?
 訊けなかった。
 代わりにどうしてお前はウェディングドレスを着ているのかしら? と尋ねると「午後八時から私と結婚式の予定です」とか訳の分からない事を言い出すので速攻でドアに釘を打って閉じ込めた。
 ドア越しに咲夜が暴れていたが、気にせず図書館に向かう。

「あら、レミィ。また来たの?」  

 台詞と裏腹に、用意してたように小悪魔の紅茶が机に運ばれてきた。
 私がふんぞり返って席に座ると、その後で美鈴からの第二の写真を持ってやってきた。 
 パチュリーは相変わらず無表情で本を読んでいる。
 私は紅茶を飲み干して、月面基地まで帰ってきたのに月兎に囚われてしまった哀れな美鈴の救出作戦を考えていた。


 ここにいれば退屈せずに済む。
 それは悪魔にとって何より大切な事だ。

 

 

 

 

■ メッセージ

「地球は青かった、が、紅魔館はやっぱり赤かったです」
「目がいいわね、あなた」



SS
Index

2007年12月24日 はむすた

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