このドSがッ!

 

 

 

*キャラ人気をネタにした物で、人によって不快感を感じるおそれもありますので、ご注意ください。



 その日、紅魔館の庭はやたらと賑わっていた。

「それでは皆様、お嬢様のベストファイブ入りを祝って――!」
「「かんぱーい!!」」

 主賓であるお嬢様のテンションの高さにパーティの豪華さは比例する。
 飲めや、歌えや、おい、伴奏がない、プリズムリバーを呼べ、金は幾ら使っても構わん! やでえらい騒ぎだった。
 ミスティアは許可取ってないのに屋台を出しにやってきた。
 屋上は人妖問わずお嬢様を褒め称える言葉で溢れ、お嬢様も調子に乗って新曲『デーモンでもいいんだもん!』の発売をサプライズ発表。
 報道陣が空からどっと詰め掛けた。
 お嬢様のご機嫌の第一人者であるパチュリー氏は「このほっぺの弾力ならば、レミィのご機嫌は一週間続くだろう」とほっぺたに指をめり込ませたがお嬢様はスルー、紅魔館のメイド達にお嬢様のご機嫌が上昇トレンドに入ったことを確信させた。
 とにかく楽しそうなお嬢様だったのである。

 が、一日後。
 
 お嬢様の機嫌は急落した。

「なんでなのよ!?」

 物にあたる、咲夜にあたる、中国がソファーに刺さる。
 なんでなのよと申されましても、それは昨日気付いておけよと言うレベルの問題にメイド達は下を向くばかりだった。
 お嬢様の不機嫌ぶりは一ヶ月に一度のレベルに達している。
 しかし朝から理不尽だ。
 とりあえず咲夜は美鈴をソファーから抜いてみたが、抜くと今度は穴からウレタン素材が飛び出してくるのでやっぱり差し直した。
 
「なんで射命丸のやつが三位なのよ!?」
 
 なんだかよく分からないが天狗の急伸に甚だご立腹らしい。
 話にならないので、しばらくメイド長秘技『楽しい手品』で誤魔化しているとお嬢様の脹らむほっぺの圧力が徐々に低下し始めたので、これなら、というところで話を切り返した。

「お嬢様。それほどまでに射命丸の人気に拘るわけは何でしょうか?」
「ええい、咲夜の間抜け! あなたはこの事態が恥ずかしくないのかしら!? 紅魔館が全員負けちゃってるじゃないのよ! こいつなんかね、か、かえい、かえい」
「花映塚」
「花映塚からの新参者だわよ!」
「仰るとおり」
「だったら少しは遠慮しなさいって話よ! ラスボス全部差し置いてレイマリに次ぐ三位ってどれだけ天狗なんだか! しかも今日放り込まれたあいつの新聞の見出しが――!」


『やったね文ちゃん総合一位♪』


「素直に三位って書かないのが腹立つうううぅうう!」
「まあ、これは確かに腹立つ……自分にちゃん付けとか……」
「このままあいつをのさばらせておくわけにもいかないでしょうよ……! 咲夜、何か良いアイディアはないかしら?」
「急に言われましても」
「きた! 早速閃いたぞ!」
「さすが瞬発力に定評のあるお嬢様ですわ」
「風説の流布というやつでいくわ! 射命丸の名を語って天狗の里の掲示板に書き込みし、あいつの品位を貶めてやるのよ! これで人気反落間違い無し!」
「お、お嬢様それはいけません、それはお嬢様の品位に関わってきます」
「ふんっ、悪魔が悪事を怖がってどうするというのだ! おい、咲夜、早速書いて来い!」
「えぇぇ……私が……」

 しかしお嬢様命令なのだから、仕方ない。
 このまま機嫌が悪いのも今後の生活にかなり困るわけで。
 咲夜は妖精メイド達の「かわいそうに……」という無数の視線に見送られ、天狗達が住む妖怪の山へと出向いた。
 来てみて分かったが、進入の困難さと誰にもばれずに書いてくるというのは、確かに時を止められる自分が適任である。
 とにかく咲夜はこう書いて戻ってきた。


 名前:人気に定評のあるブン屋 2008/02/18(月) 09:13:01 ID:398sanjyou
 秋姉妹カワイソスw
 サニーミルクに負けるとかありえないからww


 ……何だかとても大切なものを失った気がした咲夜であったが、とりあえずお嬢様へと報告の為に帰還。

「くくくっ……良くやったわ咲夜! 結果が楽しみね!」

 紅茶を飲むお嬢様の顔は上機嫌で、これでしばらくは困ることはないだろう。
 だが同時にやりすぎたと咲夜は反省した。幾ら射命丸でもあんな酷いことは言わないはずだ。
 咲夜は射命丸と秋姉妹の名誉の為に再び時を止めて、妖怪の山に訂正に向かった。 


 ――新しい書き込みがあった。


 名前:射命丸 2008/02/18(月) 09:21:08 ID:syameimaru 
 ねー、あの人気が許されるのは旧キャラまでですよねー。


「このドSがッ!!!」


――――――

 射命丸があの態度ならもはや遠慮することはないだろうと紅魔館は考えた。
 自分たちの行為を置いといて射命丸を責めるのはどうかと思うが、まあそこは悪魔の館だし。
 とにかくお嬢様は咲夜の報告を受けてすぐに激昂、許さんぞ鴉天狗、貴様らみんな根絶やしにしてくれるわ! といったところに三時のスイーツがやってきて少し落ち着いた。

「でね、咲夜、こうなると今回五位に躍進した私が立つしかないと思うの」
「ふぅむ……しかし順位で言うならば霊夢魔理沙コンビに打倒射命丸を任せておけばいいのでは?」
「馬鹿ね、魔理沙なんて今もっとも使えないキャラじゃないの。知らないの? ありえないんだぜーって叫んで倒れた後はアリスに看病されるがままの状態よ。あ、ちょっとバター取って」
「知らなかったですわ、はい」
「霊夢は霊夢でとてつもない苦労を抱えているのよ。ほら、幻想郷は厳しい世界だからね」

 するとお嬢様はクッキーにバターを重ねながらこんな話をなされた。
 幻想郷は大変厳しい世界で、それは人気に対しても同様である。一位になるということは様々なしがらみに対処しなくてはいけないのだ。
 例えば放置出来ないのがラスボス達である。
 大抵こいつらは人気上位を快く思ってない。思ったほど人気が伸びなかったときなんて尚更険悪である。
 しかし彼女達の発言力はとても強い、その為「一位になりました。これからもご助力をお願いします」と粗品を持って賢者達に挨拶回りをするのが一位を取った時の儀式になっているのだ。
 魔理沙は傲慢がたたり、遂にコレをやらなくなってしまったから今回落ちてしまった、と里のご意見番が言ってた。

「……ほんと、ホールインワン保険に入ってなかったら今頃家計はどうなってたことかって霊夢が嘆いていたわ」
「保険適用されるんだ!?」
「されるわよ、霊夢が人気一位なんてホールインワンもいいところな状況じゃないの」
「普通そんな保険なんて知りませんよ。良く入ってましたね、彼女……」
「確か三年前から入ってたなぁ」
「どれだけ一位になる気だったんですか」
「とにかく霊夢は挨拶回りに忙しいし、魔理沙はあんな状態なの、だとすると四位のお前か五位の私しかいないじゃないの。お前と比べるとカリスマに優れるのは私の方だし」
「ですよねー」
「というわけで咲夜、今回の人気投票が幻想郷にどれだけ被害をもたらしたか調査してきなさい。分かってるわね? きっと射命丸の急伸で不幸になった人がたくさんいるはずだわ」

 はぁ、なるほど、そういった情報以外は受け付けないというスタンスか。
 いつもながらの悪魔頭脳に感心する。
 しかし何でお嬢様は魔理沙や霊夢の現状を知っているのだろうと咲夜は訝しく思ったが、それも部屋を出る時にお嬢様がお尻に新聞を敷いているのが見えたので理由が解った。
 咲夜は「それ、隠せてませんよ」という突っ込みよりも、新聞の位置を強く妬む。

「まず、永遠亭かしらね」

 輝夜を除き、順位を大きく落としたグループだ。
 特に筆頭である鈴仙が振るわなかったことから、大きな不幸を呼び込んでいるに違いない。
 ちょっとお嬢様の望む方向に考えすぎかしら……と自分を戒めながら、咲夜は永遠亭に飛んだ。
 迷いやすい場所に建っているが、太陽の明るいうちなら何とかなる。
 永遠亭は程なくして見つかった――が。
 

「…………なぁに、これ」

 あまりの荒れ具合に、到着した咲夜は門を見た瞬間に呆然とした。
 想像以上だ、荒れているといったよりは時は既に世紀末と言い直した方が良さそうだった。
 一体永遠亭に何があったのか。
 まず、てゐが野生化している。
 野生化して群れてこっちを睨んでいる。
 咲夜を見ると、齧っていた人参の葉っぱだけをぺっと吐き出して、脅威の脚力で竹薮の奥に消えていった。
 
「な、なにが起こっているの……!?」
 
 咲夜は駆け出した。
 駆け出して、やたらラクガキされた門を突破し、庭に進み出た咲夜が最初に見たのは、洗濯板で洗濯をする輝夜の姿であった。
 その時点で咲夜は気絶した。
 まず許されない状況だ。
 しかも大抵ここで倒れたら「あらあら」とか言いながらドクター永琳が現れるのだが、それもやって来ない。どうなってんだ。
 咲夜は気力を奮って立ちあがると、輝夜はまだ洗濯板を擦っていた。
   
「す、すみません、紅魔館から来たんだけど!」
「…………」
「あ、あの一体何があったのか教えてもらえるかしら!? わんさかいた他の人達はどこへ行ったの!?」
「ペット更新期限が切れて……みんな野生化しちゃった……」
「え、期限――野生化!? じゃあ永琳や鈴仙はどうしてるのよ!?」
「…………」

 輝夜は何も答えずに、顎で奥を指した。
 あまりに静かな庭をおそるおそる咲夜は進み、縁側に上り、襖に手をかけた。
 そうして咲夜は怖がりながらも、一気に襖を開いた。
 そこに八意永琳がいた。
 だが何故か動かない。
 立ったまま涙だけを流して完全に固まっている。

(何があったというの……)

 人気が落ちた結果とはとても思えなかった。
 しかも彼女自身はそう人気を落としているわけでもなく、また前回から永琳はそれほど結果を気にしている様子はなかった。
 こんなになるまで何が……。

「永琳、八意永琳! 一体なにがあったのですか!?」

 咲夜は永琳の肩を掴んで強く揺すった。
 人形のように揺れる八意永琳に意識はありそうもない。
 だがそれでも咲夜が揺すり続けていると、背後から輝夜が部屋に飛び込んできて咲夜にしがみついた。

「やめて、やめて咲夜!」
「しかしっ!」
「やめて咲夜……! 彼女はもうこの世には立っていないの……!」

 ええっ……? と咲夜は聞き返した。
 そんな馬鹿な話はない、蓬莱の薬を打ち消すほどのパワーを持つ何かがあるなんて咲夜の常識では考えようがなかった。

「彼女……鈴仙がジャージに履き替えた瞬間から、ずっとこうなのよ」

 咲夜は全てを理解して長い息を吐いた。
 そういうことか、全ての原因は急落した鈴仙の方にあったのだ。

―――――

 まともに機能していない永遠亭から輝夜を連れ出して紅魔館に帰り、冷え切った身体をストーブとスープで温めてやること十五分。
 ようやく落ち着きを取り戻した輝夜から、お嬢様と咲夜にぽつぽつと事実が明かされた。

「人気投票終了の日を迎えたとき、結果に落胆はしたものの永遠亭は落ち着いていたの……」

 その晩はみんなで鈴仙を囲んで、アットホームな鍋をつついていたところだという。
 これから頑張ろうねとか、次があるよ、とか慰め合っていたところだという。

「だけど、あの天狗が……! 天狗がイナバに酷いことを……!」

 二十分後、空気の読めない鴉天狗が空からやってきた。
 彼女は散々自分の三位を自慢した後、鈴仙を見つけて「いやー、残念でしたねー、で、鈴仙さんはいつまでブレザーで頑張るんです?」なんて言葉を吐いたという。
 鈴仙は酷く落ち込んで「身の程を知りました……」という書置きを残してジャージに着替えると、竹薮に消えていってしまったのだという。
 八意永琳は、弟子が消えた事より、弟子がジャージで生きていくと宣言したことに絶望し、立ったまま物言わぬ像として固まってしまったらしいのだ。
 咲夜は考えてみた。
 もし、お嬢様がジャージで一生過ごすということになれば……。
 咲夜は頭を振り、拳で机を殴った。
 それは許せない、認められない、絶対に屈服してはいけないものが世の中にはある!

「それで、永琳があんな状態だから、収入の見込みが立たないし、ペット期限の契約更新なんて私わからないし、因幡達が次々と見切りをつけて野生化していって――」

 要するに永遠亭は永琳か鈴仙がしっかりしていないと成立たない仕組みになっているのだ。
 それは永遠亭の仕組みがおかしいと思う人が大半だろうが、紅魔館も咲夜が倒れたら似たようなもんなのでここで異論は無かった。 

「今朝の新聞にも載っていたが、どうも射命丸は永遠亭をダシにして発行部数を伸ばしているらしいな」
「すると射命丸は鈴仙を挑発する段階から、こうなることが解っていたということですか?」
「さあ? ここまでは思ってなかったんじゃない? とにかく想像以上に上手くいったのでしょうよ。これからが大変だわ、味を占めたあいつが他の不人気連中を見逃すとは思えない」
「なるほど、ネタの宝庫ですか」
「輝夜、苦労したみたいね。しばらくはここを我が家、私達を家族だと思って遠慮せず泊まっていくといいわ」
「レミリア……ううっ」
「泣かないの、貴族でしょ?」

 外部と仲良くすることが珍しいお嬢様が、かなり嬉しそうだ。
 まぁ、射命丸を潰す都合の良い大義名分がやってきてくれてラッキーというところなんだろう。
 ラスボス同士で抱き合う二人を横目で見ながら、咲夜はどうやって射命丸を懲らしめたものかと頭を悩ませていた。
 たぶん本人に悪気はないのである。悪気がないだけにタチが悪いというか元々弱いところを叩いていく天狗の性分がここにきてばっちり出ちゃったんだなと咲夜は思う。
 一度あの天狗は痛い目を見といた方が幻想郷も上手く回るかもしれない。

「さて、咲夜。これで駒は揃ったわ。早速あの天狗を懲らしめましょう」
「ええ?」

 どうせ自分が案を出すことになるんだろうと咲夜は思っていたから、自信満々のお嬢様の切り出しには戸惑った。
 一体今までの話から何を得たのだというのか。

「お嬢様、急に名案を思いつかれましたか?」 
「急にってねえ、私はずっと前から決めてるっていうのに。じゃあ、ブン屋が一番やられたら困るものは何かしら?」
「えーと、ガセネタを掴まされる?」
「何言ってるのよ、あいつの新聞にまともなことが書いてある方が珍しいじゃないの」
「はて、何でしょう?」
「自分が新聞のネタにされることよ。同業者は肥えて、ネタにされた方は動きにくくなる。その為にまずは射命丸の失敗を誘う必要があるわ。わざわざお前に輝夜を連れて来てもらったのもその為よ」

 咲夜は輝夜を見た、輝夜もまた咲夜を見た。
 どちらの顔も何も知らぬと訴えていた。だがお嬢様は「わざわざ」と言う。そうであるならお嬢様は咲夜の行き先まで読んで調査に出したということになる。
 心の底まで読めてしまうのか……と咲夜は驚いた。 
 幼いように見えてやはり底知れぬお方だ。

「じゃあ、輝夜。早速だけど協力してもらえるかしら?」
「いいけど、何をするのよ?」

 咲夜はスープの皿を片付けながら、これから不運が襲うだろう天狗の姿を想像して笑った。
 
―――――

「ふんふ〜んふふ〜ん♪」

 人気急上昇、定期購読数増加、確かな新聞の面白さに他所からコラムを書いてくれなんて依頼があったりして、射命丸文は有頂天、まさに天狗になっていた。
 本来なら取材に駆け回る朝のこの時間も、優雅に朝風呂なんかして、浮かぶ盆に載った銚子を傾けては長い息を吐いちゃったりしてた。 
 かーっ、当分、必死になる必要は無いんだもんなぁ……そう思うと射命丸はにやけてしまう。
 不人気な連中をけしかてやれば、奴らの微妙な均衡はすぐに崩れてネタを出すのだ。
 このやり方に射命丸、すっかり味を占めてしまった。
 
「ひっく。次の新聞大会はもらったようなもんだー!」 
 
 けらけらと笑って満足してから風呂を出て、昨日から放ったらかしにしている原稿に向かった。
 今日は人気投票ネタではない。春分の日に人里で行われる春祭りの告知だ。
 内容に刺激が無くそれほど受けるとは思わないが、祭りの告知は里から報酬が貰える。ま、たまにはチェンジアップも混ぜていかないとね、と射命丸は余裕綽々で書き上げた。
 今日は三月一日で三月二十一日まで後二十日もある。射命丸は告知は十日前程度が締め切りだと考えていたのだけど、早くあがったことだし今日配る事にした。 
 いつもの服装に着替え、元気よく里に飛んだ。

「幻想郷一確かな真実の泉、文々。新聞だよ〜!」
 
 射命丸の姿を見て人がわぁっと寄って来た。
 少し前までは「なんだまたあの不人気新聞か」といった扱いだっただけに、こうやって人気が出てるぞと実感できる現象は嬉しい。
 射命丸は空から得意満面に新聞をばら撒いていたのだが、どっこい新聞を拾った人達の様子がおかしい。
 皆一様に首をかしげているのが不安になって、下に降りてみた。
 
「あの〜、何かおかしな点でも」
「おかしいってあなた……」
「はい?」
「三月末の祭りを今から告知されても困るよ。それに日付が変だし」

 ありゃ? 十日早くしたのがまずかったのだろうか?
 それにしたって人間はたった二十日先のことを忘れてしまうほど鳥頭だったっけ?
 射命丸は色々考えたが、人気も出ていることだしここで反感買ってもなと、あい、すいません、と素直に頭を下げた。
 それなのにまだ不満そうな顔をしている。
 偏屈な奴だなーと思いながら、射命丸はそいつから離れたのだが、ところが今度は全く別の人が射命丸を呼び止めてこう言うのだ。
 日付が変じゃないかって。

「日付? 変じゃないですよ。どこが変なんですか?」
「でも三月一日ってここに」
「ええ」
「え、ええ? だ、だっていきなり三月なんかに飛ばされても。まだまだ二月は続くんだし……」
「は??」

 意味が分からなかったが、射命丸は少し不安になって残りの新聞を配るのを止めた。
 二月はうるう年も入ってくるし、その関係でうっかり日付が一日ずれていたなんてことがあったらブン屋の恥だ。
 射命丸は慎重になって、近くの食堂を探して中に入り、うどんを注文するとカレンダーを探した。
 壁にかけられているのは小さな日捲りカレンダー。
 捲るのが億劫なのか2/27の時点で止まっているそれに近づき、射命丸はちらっと下を覗いてみた、28、29、普通に続いている。この次は三月に入って――


 ――2/30(土)――


「は?」
 

 ――2/31(日)――


「あれっ!?」

 ――2/32(月)――
 

「ちょっとぉ!?」
「へい、素うどんお待ち」  
「お、親父さん、このカレンダーおかしいですよ!?」
「何言ってんだい。あ、七味はテーブルの真ん中ね」
「でも、今日は何日ですか!? 三月一日ですよね!? あのカレンダーはただのジョークグッズですよね!? 今は三月一日ですよね!? ね!?」
「おいおい、今日は二月三十日に決まってるだろ」
 
 おじさん朝と昼は忙しいんだ、からかうなら暇な時にしてくれ。そういって店の親父は厨房に消えていった。
 射命丸は水を飲んだ。
 落ち着け、まずは確認する事だ、あのカレンダーの続きがどうなっているか……。
 うどんもそこそこに射命丸は心を決めて、椅子を蹴飛ばすようにして立ち上がると、カレンダーを睨みつけ、先程の続きを捲った。
 
 ――2/33(火)――

「いい加減に……!」

 ――2/34(水)――
 ――2/35(木)――

「………」

 捲っても捲っても二月は続いていく。
 終わりの見えないおふざけに怒りを覚えた射命丸は、本人も気付かないうちにカレンダーを破り捨てながら二月の終わりを求めていた。

 ――2/36(金)――
 ――2/37(土)―― 
 ――2/38(日)―― 
 ――2/39(月)―― 
 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜 


 ――2/379(金)――


 射命丸は二月のスケールの大きさに声も出なかった。
 なにしろ、ここで手が止まったのは捲る紙が無くなっただけで、本当にここで二月が終わるのかどうかの確認も出来なかったのだ。
 射命丸は他のところも回って色々なカレンダーを調べたが、全部同じだった。
 月捲りのはいつまで捲っても二月がループしているのだ。

―――――

 当然そうなると射命丸の行動は決まっている。
 これを記事にすることだ。おそらく同業者(天狗仲間)も同じ記事を今頃書いているのだろう。
 同じになるから書かないという選択肢は無い。他者に特ダネを引っこ抜かれる事以上に、特ダネに反応できない所謂特抜きはブン屋にとって非常に不名誉な事だからだ。
 射命丸も気合が入った。
 号外なら同じ時間に勝負する必要は無い。速度で決まる。
 ならば誰に負けることがあろうか。意外と可愛いと求聞史記で紹介されたこの文字はどんなに急ごうと決して崩れぬ自信があるのだ。
 
「出来た!」

 これが勝負になると踏んだ射命丸は、出来上がった原稿を天狗の印刷工場に回した。
 今はお金よりも時間が惜しい。そして勝負するならば数がいる。
 辿り着いた時、もう賑やかにしているだろうと思われた印刷工場はまだ人気が少なく、思わず小さな声が漏れてしまった。
 勝った! やっと勝ったわ!
 いつに無く大量生産してもらった号外を持って、里を森を神社を回っていく。全てが終わった時にはまだ山に夕陽は落ちていなかった。
 達成感があった。その日は何を食べても美味しかったし、布団に入ればすとんと眠れた。

 翌朝、早くに眼が覚めた射命丸は、同業者が発行している新聞を取り寄せて記事比べをしてみようと思った。
 
 なんと最初の奴は特ダネをスルーしてしまっていた。
 それにしてもこれだけのネタを逃がして、一面記事に魔理沙とアリスの衝突事故を持ってくるとは滑稽である。
 このツケは相当大きいだろう。当分昇ってこないわねこの記者と射命丸は散々笑った後、次の新聞を手元に寄せた。

 ………?
 またか?

「え、ええぇ……?」

 二度続くと不安になる。
 もしかしたら自分は大掛かりなドッキリに引っかかっていて、延々と続く二月なんてないんじゃないかって。
 射命丸は探した、次の新聞を、次の一面を、無い、無い、どこにも載ってない、二月をネタにしている一面記事なんてどこにも無かった!
 新聞を放置し、立ち上がって部屋をぐるぐると回る。
 窓辺にいた鴉が射命丸の邪悪な気配を感じて飛んでいった。
 するとやはり三月、今日が三月だとして、誰が何のために私にガセネタなんて掴ませたのだろうか。
 もしも誰かが嵌め込んでガセネタを書かせたとしたら、それほど有効な一手にならない。これだけ突拍子がない話を真面目に書いていればネタとして流せてしまう。
 そうだ、手間の割りに思ったほどダメージを与える罠ではないのだ。
 では、何のために……射命丸が考えに夢中になっていると、放置していた新聞を踏んで皺を作ってしまった。

「ああ、いけない」 
 
 ライバルの新聞とはいえ、ブン屋である限り新聞を粗末に扱うのは良くない。
 射命丸は新聞を取り上げてそこで簡単なことに気がついた。日付、発刊日を見れば分かる、そうすれば今日が何日か簡単に分かる。

 2/31(日)

 ……どうやら、二月は続いていた。
 自分はドッキリを仕掛けられたわけではないようだと射命丸はほっと胸を撫で下ろしたが、その直後に悪意に気付いてぞっとした。
 
「ネタにもならないってこと……?」 

 空気のようなネタを真面目に書いてしまえば地位は急落する。
 射命丸は焦った、思い出してみれば里の人達の二月への反応は相当薄かった、それだけでなく妖怪達の反応もまた薄かったのだ。

*妖怪達の反応の一部

『チルノ、今年の二月は長いからいつ眠ればいいか分からないわ』
『長いだけに長居しなよ!』
『上手いこといった。そうする』 

『早苗、なんか二月が凄い長いらしいよ』
『え、そうなんですか? 幻想郷って良くわかりませんねぇ』


 
 妖怪連中はずぼらなだけだろうが、人間の反応が薄かったのはおかしな話だ。
 大混乱になってもおかしくないというのに、何故か誰もが平然と二月を受け入れてしまっている。
 昨日の失敗もある。今日大失敗と続けば――射命丸は自分だけが特ダネを掴んだという一縷の望みに賭けて、里に向かった。
 ……結果はゴミとなって溜まった新聞が答えていた。
 
 がっくりと肩を落として射命丸は踵を返した、道中射命丸を見る人の目もそんなことはないのだろうが批難に満ちて見えた。
 家に帰り、机に頬杖をついて考える。
 
(もしかして、輝夜さんの仕業なんじゃないだろうか……)
 
 永遠の二月、こんなことが出来そうな人で最初に思いつく人だった。
 永遠亭は不人気ネタでずいぶんと突っついた、特に鈴仙ジャージネタで大分稼がせてもらったが今は永遠亭そのものが解散しているらしい。
 そんな状態を憎んでブン屋の私を逆恨み――そういう流れではなかろうか。
 浅慮な思考! とんだとばっちりだわ! と射命丸は憤る。
 折角人気が上がってきたというのに、不人気の妬みなんかで落とされたら冗談じゃない!

「大人しく下がっていればいいものを!」
 
 射命丸は守矢神社に飛んだ。
 そこで鈴仙の時と同じように、神奈子に不人気ネタを仕掛けた、これで明日以降ここが面白い動きをすればまだまだ不人気ネタで引っ張れる。
 まずまずの動揺に射命丸は満足して帰った。
 取り戻すぞ、ここは少々過激な動きをとってでも取り戻さないといけない場面なんだ!

―――――
 
 翌日、射命丸は絶句した。

『守矢の結束堅く射命丸の挑発無意味! 空回り続く!』

 同業者にすっぱ抜かれている……。
 冷や汗がだらだらと落ちた。
 記事は守矢の結束の固さよりも、どうみても失態続きの射命丸に焦点を絞った内容だ。後半はあることないこと酷い有様で、射命丸は完全に風向きが変わってしまったことを理解した。
 これは人気取り戻しどころじゃない、自分の身を守らないといけないまでに追い詰められている……!

 射命丸はひとまず不人気連中を追うのを止め、無難な時事ネタや季節ネタで守ることにした。
 しかしよく考えてみれば季節ネタなんて使いようが無い。何しろずっと二月のままなのだから、雪割って芽吹く物も無ければ、春一番が吹き荒れる事も無い。
 二月というのは概念だけではなくて、気温から天候まで二月をそっくり真似ていた。
 そんな状態だから、特に誰も事を起こさず寒い寒いと家に篭る。
 これでは記事を書きようが無い。

 射命丸は細々と日記みたいな新聞を続けていくしかなかった。 
 その間も射命丸バッシングは続いた。
 永遠亭崩壊は射命丸主導で行われたものだ、射命丸は秋姉妹にひどいことを言った。本来ならそれほど熱くなって叩く場面ではないのだが、同業者も同様にネタがないのでバッシングが続く。
 射命丸はいよいよ弱って寝込んでしまった。

「ブ、ブン太〜、お前なら私の苦しみを解ってくれますよねぇ」

 床に伏せた射命丸は相棒の鴉に手を伸ばしたが、鴉の方も続く冬に餌取りに忙しいらしくばたばたと飛び去っていった。
 いよいよ一人になってしまった。
 うんうんと唸りながら三日、四日と過ごした。
 もう毎日続くバッシングに、新聞という名前を聞くだけで嫌になっていた。
 机に向かうだけで気が滅入る。 

(輝夜さん達もこんな気持ちだったんだろうか……)

 今やこの異変を起こしただろう主の場所も分からない。
 自分がやってしまったことは今他のブン屋が必死になってやっていることと同じくらい醜かったのだろうか。
 首を振った。
 それが報道だ、慈善事業じゃない、弱きを叩くが定め、でなければやっていけない。
 射命丸はやる気をなくしたまま、時間が解決してくれる事を望むしかなかった。

 またしばらく経った。
 その日、射命丸は久々に良く眠れて、快適な朝を迎えられた。
 肌を刺すような寒さもどこにいったか、暖かく清々しい光が外に満ちている。
 急に新聞が書きたくなった。
 
「ブン太、ブン太! 出ますよ!」

 お供を連れて久しぶりに外に出た。
 しばらく見ないうちに森の緑は活力を取り戻していた。
 きらきらと光る緑はブン屋業の再開を祝福しているようだ、射命丸は良い気分で里に急いだ。
 
 里はそこそこ賑わっていた。
 なにやら公園に人が集まって声を掛け合いながら作業をしている。
 その数に一瞬、祭りか? と射命丸は思ったがそうではないらしい。
 気になって近づいていくと、その途中で射命丸を呼び止めるお爺さんがいた。
 
「全く、連絡ぐらい寄越したらどうなんだ。ぎりぎりまで待ってたんだよこっちだって」

 いきなり失礼な奴だなと射命丸は感じたが、すぐに思い出した。
 この人は射命丸に祭りの告知を依頼していた人だ。
 
「え、待ってください。祭りの話ですか?」
「ああ」
「予定の変更でもありましたか? 顔を見せなかったのは悪かったですけど、それってまだまだ先の話ですよね?」
「…………今日は何日かね」 
「えっと今日は――」

 あんな状態だったものの、射命丸はブン屋根性でしっかり日付を覚えていた。

「2/51ですよね?」
 
 目の前のお爺さんはその言葉に、今までの諦めとは明らかに違う怒りの表情を浮かべた。
 
「ば、ば、馬鹿にしとんのか、あんたはっ!」
「え、え?」
「もういい、妖怪なんぞに頼んだこっちが馬鹿だった! 知らん!」
「ちょ、ちょっと待ってください、どこが間違っているんですか! 間違ってるなら訂正してくださいよ!」

 射命丸は追い縋った。戻ってきたお爺さんは唾を飛ばす勢いで怒りながら、里の中央に位置する公園を指差した。
 そこはさっき見たのだけど、と思いながらも見ると、里の男達が集まり設置物をばらして運んでいる様子だった……あれは……?

「今日は三月二十二日じゃ!」
「え?」
「春分の祭りは昨日もうやったわい!」

 三月二十二日――頭がぐらついた。
 熱に浮かされて、現実じゃない物を見ているような気分がした。
 射命丸はよろよろと道を逸れて、木に寄りかかった。 
 お爺さんが不思議そうな顔で去っていく。
 喉は悲鳴を上げたがっていたが、なんとか抑えた。 
 忘れていた、肝心な事を。
 輝夜さんが主犯だったとしたら……次に何をしてくる?

 永遠の夜の後に何が来た? 

「やられた……永夜返し……」

 射命丸は自分がターゲットである事を改めて認識した。
 二月は進んでなどいなかったのだ。
 ただ停滞していただけ。溜め込んだ三月は自分が知らぬ間に一気に早送りされていた。
 一体いつから三月に入っていたというのか。お爺さんの態度だと当分前から戻っていた様子だ、ああ、そうか、寝込んでいたことさえ利用されたのか。

 射命丸は悔しがった。
 評判と人気に続いて僅かに残っていた信用さえも失ってしまった。
 今度はどれだけネタにされるのだろうと恐怖した。
 人々の視線が辛いばかりでここにいても仕方ない。射命丸は鼻を啜って頼りない足取りで自宅に戻った。

「あ……」

 家の前に、どこを探してもいなかったのに今日は会えるんじゃないかと思っていた人がいた――。

――――――

「「かんぱーい!」」

 咲夜はお嬢様と二人で朝のテラスにいた。
 気の長い戦いだったが万事上手くいった。これで射命丸も、それから輝夜達も――またネタとして叩かれた連中もそう簡単に浮上することはあるまい。
 二人の心のように外は晴れ渡り、すっかり春めいた庭は、いつリリーを呼び込んでもおかしくはなかった。

「ブン屋仲間が射命丸に情報を流さないかが唯一心配でしたけど……」
「だから言ったでしょう? 手品師もブン屋もネタで食ってんのよ。ブン屋がこれからネタになってくれそうな奴にネタ晴らしなんてするもんですか」
「ええ、お嬢様の言ったとおりになりましたわ」
 
 射命丸を潰す目的で裏で糸を引いていた紅魔館であったが、この事件で紅魔館の匂いは何一つ残っていない。
 人里へのカレンダーの配布や、日付変更の予告、同業天狗に情報を流すのも、全て紙を媒体にして行ったものだ。
 紅魔館の財力に咲夜の時を止める能力が加われば工作活動など容易い。

「突然の春に射命丸もさぞ落ち込んでいることでしょう!」
「それこそ後の祭りですわね」
「ああ、怖い。女の争いは怖いわ〜。輝夜ったら作戦が終わった昨日いきなり射命丸に会いに行ったらしいわよ」
「修羅場ですわ」
「ま、私たちには関係無いし〜」
「全ては輝夜が仕掛けた喧嘩ですし〜」

 二人は一緒になって笑った。
 射命丸にはペンがある。
 ペンがあるからこそ紫も幽々子も目の上のたんこぶと思いながらも射命丸が潰せない。
 ペンがあるやつとまともに戦ってはいけないのだ。
 まともに「戦わさせるべき」なのだ。

「霊夢は賢者の機嫌を取れるだけの財力が無い、一度落ちてきた魔理沙はしばらく芽が出ないでしょう、これで次のワンツーフィニッシュは――」
「お嬢様と誰でしょう?」
「君と余だ!」
「まあ、嬉しい!」
「さ、この辺にしておいて、早く射命丸の醜態を拝むとしましょうか。咲夜、用意は出来ているわね?」

 もちろんですと返事をした咲夜が持ってきたのは、今朝早く天狗達が配っていた新聞を集めたものだ。
 当然、輝夜と射命丸のぶつかり合いが一面記事に期待される。それが回避されてたとしても射命丸は里のことで叩かれているだろう。
 …………。

「――のはずなのに、何故全てスルーなのだ?」
「変ですわね。時間が間に合わなかったのでしょうか? 明日には載ると思いますが」
「ふむ、そういうこともあるか」

 お嬢様はあっさりと納得されてグラスを口につけた。
 咲夜としてもそれ以上言う事はない。新聞を片付けてからお嬢様の隣に腰を下ろし、人気投票のパーティをやり直すように二人だけで楽しんだ。
 焦らなくてもじわじわと結果が出るのを待っていればいい。高みの見物も楽しいものだ。

「高みの見物と言えば」
「ん?」
「意外と元気ですわね……あいつ……」

 咲夜の視線を追ってお嬢様も高いところを見た。
 噂の射命丸が元気に飛んでいる。
 変だな、もっと落ち込んでいるかと思ったのだが――なめられない様に元気なフリをしているのだろうか?

「ふーむ……きゃっ!?」
 
 手首のスナップに射命丸の飛行速度が乗った新聞が、凄い勢いでお嬢様の傍に振ってきてテラスの床を割って刺さった。
 咲夜が慌てて立ち上がって拾い上げる。
 幾ら丸めてもただの紙、こんな速度が出るわけがないのだが……。

「案の定小石が入れてありますわ」
「やれやれ、あいつには配り方のマナーも教えてやらないといけないね」

 口を尖らせるお嬢様だったが、嬉しそうな気配を隠せてなかった。
 こうやってあいつが朝から新聞を配っているということは、輝夜と一悶着あってそれを記事にしているに違いない。
 潰し合い大いに結構だ。
 輝夜には口止めしてあるし、あれだけ嬉しそうにして帰っていったのだから、紅魔館には感謝をしているくらいであろう。 
 情報が漏れる事は無い。
 咲夜は新聞を持ってお嬢様の隣に戻り、お嬢様にも見えるように一面を広げた。 


『文々。新聞号外:長い二月、黒幕はなんと紅魔館!』


「ぶーっ!?」

 いきなりの見出しに、お嬢様がワインを噴出した。
 咲夜は慌ててお嬢様の洋服を拭きながらも、どうして新聞にそんなことが書いてあるのか理解できず混乱していた。

「ど、どういうことよ咲夜!?」

 咲夜に聞かれても答えようが無い。
 新聞は紅魔館が事件に絡んでいた事を断定口調で書いている。
 それどころか内容には人気三位である射命丸を疎ましく思い、それを潰す為に画策したものであることと、動機まではっきりと記述してあった。
 そんな馬鹿なことはない、証拠は何も残していないはずだ。
 
 だとすると、証言者がいるのか?

 この事件を深くまで知っているのは三人、そのうち二人が身内だ、だとすると――。
 記事の下の方にインタビューがあった。
 
『弱っているところを紅魔館に拾われました……だけど彼女達は永遠亭復興の為にブン屋を倒せと私をそそのかしたのです。私も恩は感じていましたし彼女達の申し出を断りきれず――』

 唖然とした、よくもまあここまで豹変を……いや、違う、輝夜は最初から利用されるつもりなどなかったのではないか? 
 急いで射命丸に会いに行ったのがそもそもおかしい。困っている射命丸を見るなら更なるバッシングが期待されるのだから、数日後を待てばいいのだ。
 輝夜はこの記事を射命丸に書かせるために昨日動いた。
 やがてこの記事を切欠に、他のブン屋も紅魔館を叩きにくるだろう。
 大人しかった輝夜がにんまりと笑って出て行ったのが良く分かった。
 紅魔館の票を奪い、次回永遠亭に回す為に、大人しいフリをし続けていたのがようやく実るからだ。

『そんなに彼女達を責めないでやってください。私が悪かったのです。洗脳のような事は何度もされましたが私の精神がもっと頑強なら――』 

 二人は同時に叫んだ。

「「こ、このドSがッ!!」」

 

 

 

 

■メッセージ

_人人人人人人人人人人人人人人人人人_
>ま、ゆっくりよんでいきなさいよ!!    <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
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   /__二ニ=-ハ::::::i:::__i_::::::、::::::::::::',
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2008年3月2日 はむすた

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