雪中に

 

 

 

 

<本文より抜粋>

「ああ、だから」
 とても納得いったというように、レティはうなずいた。笑ったまま片目をわずかにすがめ、するとにこやかだった表情が、はっとするような嫣然としたものに映った。まぎれもない妖気を、そこに含んでいる。
「それで人間の妖怪退治ってわけかい。でもね、無駄よ。あなたは主と従を理解していない。私を倒したところで、この冬にはなんの影響を及ぼすこともできないの」
 咲夜の体が小さく震える。レティの言葉に慄いたのではない、いつの間にか気温がさらに低下していて、身体の芯まで冷えが沁みつつあったのだ。
「逆に私は、冬が厳しいほどに力を得る。いつかのただ冗長で、終わるのを待つだけだった冬の終わりのときとは違う。冬はまだまだこれから、あなたに終わらせることなどできないわ。間の悪いときに来てしまったわね、頭のおかしいメイドさん」
 レティがしゃべるのに合わせて、寒気が凶悪さをいや増していく。
「でも……理由はどうあれ、わざわざ私に会いに来てくれたのだから。全力でもてなしてあげる」
 いまや骨まで凍みついたかのようで、体がひどく重い。それでも咲夜の蒼い氷色の瞳には、強い光が残っていた。
 白銀のメイドはゆっくりと腕を持ち上げ、
「そうね。たまには人に接待されるのもいいかしら」
 ナイフを口にくわえると、悠然たる動作で手袋を片方ずつ、脱ぎ捨てた。露わになった、雪よりも白く、細い指の狭間に、転瞬、半ダースものナイフの束が白刃の列を作る。
口のナイフもその並びに加え、ぎらりと、氷よりも冷ややかな笑みを広げた。
「行くわよ、黒幕。全力でもてなされてあげる」


咲夜 対 レティ

『少女越冬』

 

 


 

 

 

 

月下に

 

 

 

 

<本文より抜粋>

 歯噛みし、思わず地面の土に爪を立てたとき、手がなにか冷たいものに触れた。傍らに置いてあった、自分の武具だった。剣と盾、長らく愛用してきた装備。なによりも頼れる寡黙な相棒。
 藁にも縋るような想いに駆られたか、気が付けば椛は、剣の柄に指を絡めていた。
 文に見咎められる。
「やややや……なるほどなるほど。そうですね、主張を通すのなら、それが最も簡単で、だから正しい」
 ほんのちょっとだけ驚いたように目を丸め、だがやっぱり鴉天狗は温度の低い笑みをたたえている。傲然と言い放った。
「よろしいです、私は断然、構いませんよ。なにせもみじ狩りにはうってつけの季節ですし」
 筆記用具がその手から消え、代わって団扇が出現する。椛の曲刀にも劣らぬ、文の剣。
 その切っ先を向けられて、しかし椛は武器を構えようとしなかった。地に座り込んだ姿勢のまま、顔に汗を浮かべて、文のことを見上げ続けるだけだった。
 弱者には尊大だが、格上にはへつらう――そんな天狗の種族的特性が、椛の体を地に縛りつけていた。
 強者には逆らうべからず。
 椛にとって文は、立場だけでなく実力においても目上の存在だった。哨戒天狗としての経験から、椛は彼我の実力差を推し量る能力に長けている。自分ではまともには勝ち得ない、そのことがはっきりと分かってしまっていた。
 それでも。



椛 対 文

『少女月刀』

 


 

 

 

 

花の記憶に

 

 

 

 

<本文より抜粋>

 近づくと、夜に目が慣れてきたこともあって、相手の姿をだいたい掴むことができた。修四郎は刀をひと振り、手にしている。鉄鞘に無数の傷が刻まれた、随分と時代を感じさせる太刀だった。
「曾おじい様のですか」
 あの長屋の部屋のどこかに仕舞ってあったのだろう。昼に戦うことを決めた時、もし彼女が武器を持たないならば白玉楼の蔵に眠らせてあるのをひとつ貸してもいいと、妖夢はそう提案して、断られていた。そのときから、もしやとは思っていたのだ。
「はい、唯一の遺品です……だから、さすがに捨てるのは忍びなくて」
 鞘には半ばほどまで、白布が固く巻きつけられている。それを全て解き、地面に捨てると、修四郎は刀の鯉口を切った。
 妖夢も楼観剣の柄へ手を伸ばす。半身に助けられながら抜刀、続けて白楼剣も抜き、二刀を中段に構えた。
 修四郎も抜く。鞘を捨て、それを互いに無言で合図とした。



魂魄 対 魂魄殺し

『少女血統』

 

 

 

 

 

 戦う少女たちの話

 

 

 

 

少女決闘
表紙:くま

 

『少女決闘』


著 日間

11/2 東方紅楼夢4
ふじつぼ を26a
文庫 132p
価格 500円
委託 メロンブックス

 

 

 

 

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