ボールデッド

 

 

 

「メリー! 野球するわよ!」
「また唐突な……」
 蓮子は既にバットとボールとグローブを準備している。
 でも相変わらずのカーディガンに黒いスカートだった。帽子は被っていない。
 呼び出されたのは近所の公園で、子どもも大人も猫も不審者も誰もいなかった。いやむしろ近隣の住民からすれば私たちが不審者であることは疑いようもないが。
「じゃあ、私ピッチャーやるから! メリーはバッターね!」
 蓮子うるさいし。
「そう……。え、ええと、とりあえず稲の生えているところに群生すればいいのかしら……」
「それバッタじゃん! やだもー!」
 頭に向けて金属バットを振り抜く宇佐見蓮子。
 親友です。
「あと、よく考えたら稲を食べるのはイナゴの方だし……」
「突っ込みを間違えたわね。ごめんごめん」
「それ以前にバットをフルスウィングしたことを詫びてほしいんだけど」
「甘いわねメリー。フルスウィングっていうのはね」
 実践しようとすんな。
 あと構えが冗談になってない。
「蓮子。蓮子」
「アイアム蓮子です」
「『です』が余計」
「ニホンゴムズカシイネー」
「英語だけどね」
 肩を竦める動作が腹立たしい。
「いいから、野球しましょう」
「随分と乗り気なのね。いいわ、望むところよ」
 蓮子から受け取った金属バットは、見た目よりもずっと重く、これで殴られたら洒落にならなかっただろうなあと思う。私が避けると信じていたのか、当てる気がなかったのか、そのわりに頭蓋骨を余裕で叩き割れる軌道だったんだけどそれはどう解釈すればいいのか。
 ひとまず、私はグローブで蓮子の頭を殴った。
「痛いわ」
「ごめん」
 避けもしなかった。
 一方的に私が悪いみたいになってしまって非常に申し訳ない。
「とにかく野球をしましょう! 私たちは野球をするためにここにいるのよ!」
 秘封倶楽部って何だろう。
 あと蓮子うるさい。
「ごめん」
 表情から察してくれた。
 以心伝心。
「ええと……、とにかく、蓮子が投げてくれないと始まらないんだけど」
「うりゃ」
「いッた」
 こいつ至近距離から投げてきやがった。
 本当にルールわかってるのか。
「デッドボール!」
 よくわかってるじゃないか。
「蓮子、ちょっと離れて」
「何マイルくらい?」
「心情的には20マイルくらい離れててほしいんだけど」
「え、わたし何かしたっけ」
「そうね。あなたは何もしてないわね」
 もはや悟りを開きつつある。
 このままだと解脱してしまいかねないので、強引に蓮子を10mほど引き離し、私も適当にバットを構えて立つ。
 人の気配もない寂れた公園だが、変な方向に打ち上げてしまわないよう気を付けよう。
 まあ、来たボールに対して一度バットを振れば野球をしたことにはなるし、最低限の義理も果たせる。蓮子はあれこれ言うかもしれないが、ここまで付き合ってあげたのだから文句を言われる筋合いはイテッ。
「デッドボール!」
 よしわかった乱闘だな乱闘。
 ボールを握り、バットを担いで向かってくる私に対し、蓮子は深々と頭を下げた。
「申し訳ございません」
 謝れば何でも許されると思うなよ。
「ケーキごちそうするから」
 しかし私とて鬼ではない。
「メリーのおごりで」
 私は蓮子に剛速球を叩きこんだ。

 

 

 

 



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2011年12月12日  藤村流
東方project二次創作小説





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