第二回
東方最萌トーナメント
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・鈴仙(永夜抄5面ボス)支援 『寂しくないうさぎ』
・八雲藍(妖々夢EXボス)支援 『あの日のあぶらあげ』
・西行寺幽々子(妖々夢6面ボス)支援 『東の空に陽が沈む』
・フランドール(紅魔郷EXボス)支援 『スカーレット』
・紅美鈴(紅魔郷3面ボス)支援 『明治十七年の上海ブルース』
・秘封倶楽部支援 『あなたにとっての一般解』
・秘封倶楽部支援 『永遠亭の慌しいけど平穏な夜とその来訪者』





『寂しくないうさぎ』




 こんばんは、鈴仙・優曇華院・イナバです。
 みょうちくりんな名前をしているのは無視してください。私もそうしてます。
 実は、ある悩み事があるんです。

 その日、私のお師匠にあたる月人……あ、矢意永琳って言うんですけど。初見じゃ読めないですよね。
 で、永琳師匠はたまにぼーっと月を見上げてる時があるんです。
 近くに私が居ても、大抵は何も話さないで黙ったままなんですけど、この前は……。

「ねえ、ウドンゲ」
「なんですか?」

 本当は名前で呼んでほしいんですけど、あんまり贅沢は言えません。静かに応対します。

「月見うどんが食べたいわ……」

 そんな遠い目をされても困ります。あと、話すときはちゃんとこっちの目を見てください。

「食べればいいじゃないですか」
「そう簡単に食べることができたら苦労はないわ。私は、ただの月見うどんじゃなくて、月でしか食べることの出来ない月見うどんが食べたいのよ」

 ……だから、拳を握り締めて力説されても困りますってば。

「というか、月に居たんじゃ月を見れないから、そもそも月見うどんですらないと思いますけど……」
「……甘いわね、ウドンゲ。月のうどんはね、生半可なうどんではないのよ」

 月の頭脳とまで呼ばれた師匠がそう言うのですから、それはきっと凄いうどんなんだと期待しました。
 ほんのちょっとだけですけど。

「卵を落とせば群雲に隠れた月が現れるけれど、そこに二つの卵を落とせばどうなると思う?」
「……コレステロール血漿ですか?」
「そう、マインドシェイカーよ」

 無視されました。酷っ。

「ほんの少しだけ鮮度を落とせば、黄身も若干赤みを帯びてちょうどいい充血具合になるわ。これぞ、月の民だけが食することを許される月見うどん……」

 ごくり、と生唾を飲み込む師匠の顔は、幸いにもよく見えませんでした。
 ていうか、それ普通の贅沢な月見うどんじゃないですか、とは言えないわたし。哀れ。

 ……で、本題なんですけど。

 この後、私が使えている姫様に『鴨南蛮はうさぎの肉でも代用できるのかしら』とかいう泣くに泣けない難題を出されてしまいまして。
 なんていうか、永遠亭のうさぎたちが暴徒化してるんですけど。

 私、どっち側に着いたらいいんでしょう……。あ、ちなみにてゐはダブルスパイやってます。

 いっそのこと、夜逃げした方が楽になれるのかな……。はあ……。




−幕−
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『あの日のあぶらあげ』




 朝もはよから家事をこなしていると、背中から響いてくる足音が聞きなれた式のものと気付く。
 洗濯物を干す手を休め、かんかんでりの日差しに流れる汗を拭う。
 藍さまーと呼ぶ声に振り返れば、そこには相変わらずの橙の姿が。

「おお、どうした橙。今日はやけに早起きだな」
「……えっと、実は藍さまに聞きたいことがあって」

 もじもじと、いつも明朗快活な橙には珍しく発言に手間取っている。
 はて、この子に限って聞きづらいと思うことがあるのだろうかと首を傾げてみるが、結局答えには辿り着けない。

「うん、とにかく遠慮せずに言ってみるといい」
「……はーい。あ、あの、藍さまはどうして紫さまの式になったんですか……?」
「――――と」

 確かに。
 それは聞きづらい内容ではあると思う。かくいう橙も式であるから、そういう出生に関しては敏感になってしまうのだろう。
 もっとも、私は橙を無理やり式に命じた訳ではないが、それでも橙の意志があったかといえば首を振らざるを得ない。
 私が私なりに最善の結果を選んだつもりでも、橙がそう思っていない可能性は否定できないことだし。
 ……しかし、それはもう過ぎた話だ。
 同じように、私と紫様の馴れ初めも、とうの昔に通り過ぎた懐かしい思い出でもある。

「あ……。もしかして、聞いちゃダメなの……?」

 少々難しい顔をしている私に、橙も気を遣っているらしい。

「いや、そんなことはないよ。ただ、あまり運命的な出会いでも無かったから、橙の期待に沿えるかは判らないが……」
「それでもいいですっ。ぜひ聞かせてくださいっ」

 ずいっ、と身体を摺り寄せて、瞳を爛々と輝かせながら懇願する。
 ……全く、むちゃくちゃ期待してるじゃないか。

「……あれは、いつのことだったか。私はまだ式ではなかったが、それでも永く生きてきて多少の知性は備えていた――」




 恐れるものがあるとすれば、皮肉なことにそれは退屈だったのだろうと思う。
 人間は私を恐れて用意に近付かないし、獣や妖ですらも力を付け過ぎた私に近寄ろうとしない。
 既にこの身は霞を食ってでも生き延びていける術を持っており、わざわざ人里に下りて人を食うのも面倒だった。
 だが、それでも暇は恐ろしい。
 暇潰しにと、人に化けて人を化かしたり、好物の油揚げを買い占めたりしていた。
 ……と、誤解があるといけないが、霞程度でも生きてはいけるが、やはり味はあった方が良い。
 特に油揚げは食欲をそそる。一時期、惣菜屋が揚げている豆腐の匂いに誘われ、そこの主人ごと喰らいそうになったことさえある。

 ……しかし。

 この状況下にあって、それに飛びつけるほど浅慮な私ではなかった。
 人里に下り、適当に食べものを食べ漁ってから山に戻ってみれば、獣道の途中に見える油揚げ。……油揚げ?
 うん、そうだ。油揚げだ。
 それは樹の枝に吊るされている訳でもなく、石の上に寝かされている訳でもない。
 ただ空中にぶらぶらと揺れているだけだ。……糸も紐も、吊るす手もないというのに。

 ……しかし、良い匂いだ。

 ぽん、と隠していた尻尾が出てしまう。人に化けている時は隠しているのだが、気を緩めると簡単に漏れてしまう。
 ひくひくと知らず知らずに鼻が動く。その匂いに誘われて、小さい獣も姿を現す。いつもは私を避けて通るくせに。それほどまでに芳しく、甘美な香り。
 キツネ色にこんがり揚げられた衣は、まるで私を象っているようだ。

 ……しかし、私は妖狐だぞ?

 不意に伸ばしかけた手を引っ込める。
 驕り高ぶっているつもりはないが、それでもやはり矜持というものはある。
 近隣の山々で頂点に座している私が、得体の知れないジューシーな油揚げにかぶり付くなんて、そんなはしたない真似――。

 ……ああ、でもどうするよ? なんか美味しそうだぞ。

 これを逃せば二度と味わうことが出来ないかもしれない。
 そう思ったら最後、引っ込めた手は再び油揚げに伸びていく。
 油揚げの味は、豆腐の原材料であるにがり、そこに使われる海水の塩分濃度、油の温度、その日の湿度など様々な要素に左右される。
 一つとして同じ味には仕上がらない。それこそ油揚げの魅力と言えるのだが――。

 ……くぅ。

 あ、なんか駄目そう。
 ふよふよと浮いている油揚げは、私を催眠術に掛けるかのように小さくぶれている。
 ああ、しかしなあ私って結構威厳あるしなあ。ヒトガタをしていても獣たちは寄ってこないし。でもでも今はその権威が油揚げに負けてるし。なんかさっきから鳥の鳴き声も聞こえるんだけどもしかして食おうとしてる? ああ何にしてもとにかく早く決めないといけなんだけど、プライドとかあるしでも涎とか出そうだし細かいこと言ってもしょうがないし――。

 ……ええい、どうにでもなれっ!

「はむっ」

 あろうことか、口から油揚げに食い付いていく。威厳も何もあったもんじゃない。
 だが――。

 ……ふかふか……。

 心地よい食感、噛み締めるたびに柔らかく舌に染み渡り、それでいて飽きることのない甘さ――。
 ああ、なんかもう極楽だ。
 やっぱり食べて良かった、と緩みきった顔で思うことしばし。

「……あら、ちょっとしたものが釣れたわね」
「――!」

 油揚げの上から声がする。
 しかし、違和感を覚えながらも油揚げから口を離すことが出来ない。
 それは未練ではなく、何か別の作用が加わって私を油揚げに縫い付けているのだ。

「――ふむぅっ!」
「別に大したことじゃないわよ。ただ、魅力的な油揚げでも吊るしておけば、活きの良い妖狐が釣れるかなと思っただけだから」
「むぅ!」
「貴方も暇なんでしょう? だったら私に付き合ってくれないかしら、ちょうど式が欲しいと思っていたところだし……」

 声はすれども姿は見えず。
 私も抵抗を試みるが、口は元より身体が一切動かない。
 ――何か、心身の可動部位に線が引かれてしまったように力が出ない――。

「暇潰しに、貴方の退屈を満たしてあげましょう。……それでは、妖狐一匹スキマにごあんな〜い」
「ふむぅ――!」

 じりじりと引き上げられていく油揚げと私。
 遠ざかっていく地面に別れを告げることも出来ず、突然に割れた空のスキマに吸い寄せられる。
 ――その先に、白い手袋をはめた、妖艶な美女が佇んでいるのが見えた。




「で、私は紫様の式になった訳だが……」

 マヨヒガの家に腰を落ち着けて、お茶を啜りながら昔話に花を咲かせる。
 橙も最初は行儀よく正座して聞いていたのだが、集中力が切れた今ではちゃぶ台の上に肘を突いている。

「? どうしたの、藍さま」
「……思い出した。確か、橙も同じような手段で紫様に釣られたことがあったな?」

 あれは橙が私の式になって間もなく、マヨヒガの外にお遣いに出たはずの橙が、紫様と一緒にスキマからにょろんと登場したことがある。
 ……その手でマタタビを弄くりながら。
 そのときのことを思い出したのか、ふにゃーと顔を緩ませる橙。

「うー、そういえばそんなこともあった気がするにゃー」
「橙。猫に戻ってる」
「……あっ、いけないいけない」

 ぱし、と顔を叩いて気を引き締める。それでも知らずと表情はぽやぽやしたままだった。

「……要するに、うちの一家は似たもの同士ってことだな」
「藍さまといっしょー」
「……ああ、そうだな」

 柔らかく笑いかけてくる橙を見て、私も不意にあの日の油揚げの味を思い出す。
 少しずつふやけてくる表情の奥で、いつか紫様からあの油揚げの作り方を教えてもらおうと思った。




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『東の空に陽が沈む』




 ぼんやりと眺めている冥界の空は、夜と朝の境界が色濃く彩られている。
 眠気覚ましにと妖夢にお茶を淹れるように頼んだが、こうして縁側で座っている幽々子の手に馴染みの茶碗の姿はない。
 何を手間取っているのだろう、と思いながら、視線は空へ、意識は朝焼けに飛ばしたまま。

「……きれいね」

 空気は冷たいが、幽霊の温度そのものが低いためにいつもより寒いか温かいかは判別しづらい。
 ただ、この身体をなぞっていく空気は嫌いじゃない。
 明るさと暗さを等しく主張する空も、月と陽を隠さない半端な群雲も、去りゆく月も上り始める陽も。
 その何もかもが在り来たりで、素晴らしい。
 ぼんやりと、消えそうな意識を堪えようともしないまま佇んでいると、背後から慌しい妖夢の声を聞く。

「お待たせしました」
「ご苦労さま。今朝のお茶は、待った甲斐があるくらい美味しいんでしょうね、きっと」
「う……。だから、お待たせしましたと」

 言い訳がましい声を聞き流し、馴染みの茶碗を受け取る。……ああ、この温かさも嫌いではない。
 妖夢は幽々子の傍に立ったまま、幽々子に合わせて変わり栄えのしない空を見上げる。

「なんだか、今朝はいつもより冷えますねえ」
「あら、半分幽霊の貴女が言えたことかしら」
「それは幽々子さまだって同じじゃないですか」
「私は、気温と同じくらい冷えているから別に寒くはないのよ。
 たとえ少しぐらい寒くても、こうして陽が落ちる様をぼんやりと眺めているのが好きだから。
 朝に起きて、夕べには骨になって尽きてしまうような生き様も素敵だけれど。
 ただ徒然に何事もなく、あるがままに過ごすのも悪くないわ」

 お茶もあるしね、と妖夢に笑いかけるも、当の妖夢は苦笑するのみ。

「あるがままに、自由にされて困るのは私なんですから……って」

 幽々子の言葉に引っ掛かるものがあったのか、妖夢は不意に問い返す。

「陽が……落ちる?」

 妖夢が振り仰いだ空には、程よく紅々と染まった陽が空を薄く染めていた。

「……今は、夜明けですよね」
「ええ。でもね、見ようによっては、陽が暮れてゆくようにも映るじゃない。
 そのどちらもきれいなんだから、今は夕暮れでも朝焼けでも良いのよ。
 そこに、紅く染め抜かれた陽と空があるのなら」
「……はあ」

 生返事を返し、妖夢は再び朝焼けの空を仰ぐ。隣では、幽々子が音もなくお茶を啜っている。
 物事は、見方を変えれば丸きり違ったものに見える。
 主観ひとつでは、事の真理を読めないということか。
 だがやはり、妖夢には幽々子の言いたいことの半分も判らなかった。ただ、理解しきれていないということだけ、理解できる。

「でも、きれいですよね」
「……そうねえ」

 答えを出すのは後にして、とりあえずは紅い陽を静かに見続けていよう。
 多分、この景色が綺麗だということぐらいが、唯一明白な真理なのだろうから。




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『スカーレット』




 五年だ。

 姉と妹がこの世に生を受けた時期は、実に千八百もの日を隔てている。
 片や運命の手綱を握り、片や破壊の戦斧を振るう。
 共にスカーレットの銘を与えられながら、コインの表と裏を司る吸血鬼の姉妹。

「……お姉様」
「……なあに? フラン」

 普段、フランドールが休んでいる地下の部屋に、姉と妹は腰を落ち着けている。
 毎日という訳ではないが、姉妹は定期的にこうして話をする。
 外へ出れない妹に代わって、姉は外で出会ったあれこれを教えてあげる。
 知識だけなら図書館で事足りるのだろうが、姉が言って聞かせることに意味があるのだと、友人は言っていた。

「人間って、どんなもの?」

 頬杖を突いて、無邪気に尋ねる妹は人間を知らない。
 食事を持ってくるのは悪魔だし、普段口にしている食事も人間とは似ても似つかないものだ。
 それでも、レミリアの話の中に何度も『人間』という言葉が出て来るから、興味を惹かれてしまったのだろう。

「人間はね、吸血鬼になくてはならないものよ。
 人間の血を吸わなければ、吸血鬼は吸血鬼でいられない。
 人間を襲うのも、別に嫌いだからではなくて、本当は好きだからなのかもしれないわね」
「……お姉様は、好きなの?」

 自分では好き嫌いを測れないから、姉にその答えを求める。
 レミリアは、血で染まったティーカップに視線を落として、その後に言った。

「多分ね」

 確信はない。
 そもそも、レミリアの知る人間はみな何かしらの特技を持っている。
 彼らのことが好きというのと、人間全てを愛する対象に含められるかどうかは、全く別の概念のように思えた。

「貴女は、どう思う? 私の話を聞いて、人間を好きになれそう?」
「……判らないわ。
 お姉様の話だと、弱いし、すぐ死んじゃうし、ちっとも良いところが無いんだもの。
 一緒に遊びたくても、ずっと一緒に居られないなら、そんなものが近くにあっても困るだけ」

 なかば、怒り出しそうな口調でフランドールは語る。
 まだ一度たりとも人間に触れたことがない彼女も、いずれ人間と出会うだろう。
 吸血鬼は人間なくして生きていけない。
 その絆は、吸血鬼同士、あるいは人間同士のそれを凌駕するほどに固く、太く、狂おしい。

 ――五年だ。

 運命は五年の歳月を掛けてその能力を破壊へと導き、愛すべき人間との接触を血で彩るだろう。
 しかしそれは悲劇ではなく、喜劇の始まりに過ぎない。
 なにしろそれは彼女にとって単なる遊戯に過ぎないのだし、もとより余分な感情など植え付けられていなかったのだから。
 もし彼女に悲しみを教えられるのだとしたら、それは同胞たる吸血鬼の役割ではない。

 コインは既に握られている。

 さあ、コインの裏には何が描かれている――?




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『明治十七年の上海ブルース』




 明治十七年、西暦千八百八十四年、光緒十年の中国。

 当時は清という元号を抱き、西洋各国と長きに亘り戦乱を繰り広げた。
 清が見据えた先にあったのは中華の復興か、はたまた内憂外患の没落か。
 かの不平等条約は、上海の地に租界という名の結界を作り出し、西洋の幻想と東洋の現実が交錯する異界の温床を形成することとなる。

 その異界に、人ならぬ妖が紅い身を潜めていた。






「――っ、はぁ、ぁ……っ!」

 男は闇の中をひた走る。
 何に怯えているのか、何から逃げているのか、その一切が不明。
 ただ、自分が危険に晒されているという漠然とした衝動だけが彼を駆り立てる。
 ――逃げろ。
 立ち止まったが最後、おまえの未来は完全に閉ざされる。

「な、なんだよ、何が悪いんだよぉ、ちくしょおぉ……!」

 壁にぶつかり、ガラクタにつまづき、浮浪者を弾き飛ばしながら。
 追いかけて来る何かに毒づき、目を血走らせて、彼は呼吸すら忘れて遁走する。

 ――当時、阿片貿易はひとつのビジネスであった。
 清国は激しい中毒性を伴った快楽そのものを禁止したが、二度の戦争に敗北することにより、阿片の合法化を認めざるを得なくなった。

「……あ、アヘンか……? でも、別にいいだろうがぁ、それくらい……!」

 暗闇に慣れた目は、より明白な地獄しか映さない。
 阿片がもたらした幻覚は、得体の知れない焦燥感を更に更に煽り立てる。
 壁の向こうには鬼がいる。
 道の透き間には蛇がいる。
 闇の彼方には竜がいる。

「は、はひぃ……!」

 幻想の生物から逃れるために、彼は目を瞑って走る。
 そのたびに転び、身悶えながら起き上がり、背筋を走る冷たい熱に急かされてなおも走る。

 ――しかし、法律で定められたといってもそれはあくまで形の上でのこと。
 麻薬を吸っていることが表に出れば信用は失墜し、自らの心身も破滅に至る。
 だがそれでも、先の見えない不安からか阿片は爆発的に売れた。売れすぎた。輸入を規制しようにも貿易船は次から次へと上海に流入し、大量の悪魔の粉が海を越えてやって来る。

「くそ、くそ、くそくそくそぉぉぉ! なんで、どうして俺がこんなに怯えなきゃならねえ!
 どいつもこいつも、みんなみんなみんなあいつが悪いんじゃねえかぁ……!」

 流通量が増加すれば価格は下落し、悪魔の粉は希望を失った下層市民の間にも広まっていく。
 上を支えるために存在した無数の一般民、その土台となる部分が理性を失えば、遠からず国家の機能は破綻する。

「あいつが、あいつがぁぁぁぁ!」

 我武者羅に、視界に入るもの全てが敵だと言わんばかりに叫びながら、男は疾走する。
 やがて疾走は失踪に繋がり、慟哭は忘却の狭間に消える。
 ――この、悲劇的な夜を終わらせてあげる、と彼女は嗤った。

「それって、誰のこと?」

 租界の夜は冷たく、人一人さえ通らない。
 実際には、酒場を行きかう人のひとつやふたつあるはずなのに、今日に限って上海の港は閑散としていた。
 だから、という訳ではないだろうが。
 暗闇に降りたひとつの声は、漆黒の空によく栄えた。

「……ぅ、あぇ……」
「ごめんなさい。驚かすつもりは無かったの」

 あくまで丁寧にその女は語る。
 その衣装が黒く見えるのは宵闇のせいか、それとも男の神経が焼け焦げているせいか。
 ただひとつ、人間とは思えぬほどに面妖で流麗な紅い髪が、ほんの一瞬のみ男の意識を無に還した。

「っ……! う、ぅ……だ、誰だ、おまえ」

 再び混濁した意識、掠れた声に戻っても、目の前にいる女性が誰かと問わずにはいられない。
 ――優先順位を間違えるな。
 さっきまで自分を脅かしていたのは、この女であることに間違いない。
 見惚れていたのも幻惑の一種、侮るな、小娘とあったとしても一寸先には真紅の闇が待っている――!

「だ……だ、誰だ、誰なんだおまえぇぇ!」

 絶叫と共に、ポケットから短銃を引き抜く。
 朦朧とする五感を引き絞り、目の前の敵を射抜くことのみに神経を集中させる。
 ――殺せ。
 殺せ、殺せ、殺せころせころせころせコロセころせコロセぇぇぇ!

「――っあああぁぁぁ!」

 撃鉄は起こしたし引鉄も引いた。ならば銃弾は音速を超えないまでも真一文字に女の身体へと突き刺さり、全ては十全、何事も無かったかのように租界の夜は白々と明けてくれるだろう。
 ――それなのに不安だ。
 自分はどうしてこんなにも凍えている。
 一瞬、たった一瞬、おそらくは引鉄に指を掛けた一瞬しか目を閉じていないはずなのに、どうしてなぜこうもあの女が自分の首をへし折るイメージしか湧いて来ないんだ――!






 銃弾と、人間が弾ける。






 即座、彼女が連動した。
 あろうことか銃声を聞いてから行動を開始したにも拘わらず、彼女の速度は弾丸が身体を捉えるより速い。
 それは偏に、男が引き金を引くのに一瞬の躊躇いを要したからに他ならないのだが、それを男が悟ることはない。
 ぱん、という気の抜けた音と同時に男の真正面に正対、射程圏内に侵入。
 銃弾の方向を確認、跳弾の可能性を配慮して弾丸そのものを『左手』に掌握。
 ――痛覚機能、動脈と静脈の流動を遮断。掌握、沈黙を確認した直後に破砕。消滅。
 『右手』は必要最低限の威力だけを秘め、『左手』で掌握した銃弾の慣性に従い、てこの原理によって掌底を放つ。
 ――無音。
 銃声や悲鳴からすれば、呆気ないほどに短く鈍い破壊音はしかし、それだけで人を滅ぼせる力がある。
 男の顎にするりと吸い込まれた一撃は、両手で銃を構え、それ以外の防御を取っていなかった男を軽々と宙に舞い上がらせる。
 無防備に、あるいは自由に宙を踊る男の手から、誰一人殺せなかった短銃が落ちる。
 その凶器を無造作に『左手』で捕獲し、しかる後に、握力だけで粉砕する。

「いつつ……。ちょっと、無理したかな……」

 軋む左手を振りながら、バラバラになって地に落ちた銃の欠片を見下ろす。
 その場の勢いで銃弾を受け止めたものの、下手をすれば怪我をしかねない。
 妖といえども、人に負けることがある。
 なにせ、この大陸に幾億だ。自分ひとりが太刀打ちできる量じゃない。
 彼女は、幾分か険の取れた顔で、潮風に晒されたままに男を見やる。

「廃人なら、抵抗もないかと思ったけど……」

 男はまだ生きていた。
 錯乱し、逃げ惑いながら抵抗した男にも、そうなってしまうだけの理由はあるのだろう。
 忌まわしきは誰なのか、憎むべきは誰なのか。
 男が一方的に悪いと叫んでいた『あいつ』とは、一体どこの国のことを指しているのか――。
 と。思考が妙な方向に漕ぎ出そうとしていたので、慌てて首を振る。

「……駄目ね。まだ、人は喰えそうもないわ」

 ふう、と肩を竦める。人を見て、あれこれ考えているようでは妖怪失格だ。
 夜風に流れる髪を整えもしないまま、彼女は再び租界の闇に姿を消す。
 混迷した時代に生き、歴史の渦に翻弄される人間を喰わずには生きられない存在。
 そんな自分を憎みはしないけれど、もっと簡単に生きられたらなあとは思う。多分、生まれた時から。
 いっそ、阿片でも吸って我を失えば余生を楽しめるのだろうけど――。

「まあ、戯れ言よね」

 遠くから響く、狂おしい男の泣き声を耳にして、一匹の歎美な妖怪が苦笑する。
 ――租界の夜は遠い。
 異端の象徴である異界の夜を、輝かしいまでの真紅に染め上げてもなお、この国の黎明は遥か彼方に落ち込んだままであった。




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『あなたにとっての一般解』




 秘封倶楽部、というサークルがあるらしい。

 そんな曖昧な情報に踊らされて、私はそのメンバーと接触を図ることにした。
 何か目的があってのことではない。言うなれば、好奇心の延長のようなものだ。
 彼女たちは、こちらでは見ることの出来ない幻想に手を伸ばしているらしい。
 本来、そういった行為は禁じられているが、抜け道というのは何処にだって存在する。
 昇ってはいけないと言われた鉄塔ほど、超えてはならないと諭された境界ほど。
 自らの手に余る幻想ほど、手を伸ばしたくてみたくなるのだ。

「――ええ、そうよ」

 私はまず、秘封倶楽部の代表と目される宇佐見蓮子の話を聞くため、彼女との会席の場を設けた。
 ……とはいえ、私程度では大学近辺の飲食店しか予約出来ないのであるが。
 まして、見ず知らずの他人の誘いに、こうもあっさり乗ってくるとは思わなかった。
 まあ、噂通りというか、ちゃんと時間に遅れて来たから本人であることは確かなようだが。

「隠された結界を暴く……とでも言うのかしら。実際にその境目を『見る』のは、私じゃなくてもう一人の方なんだけど」

 問われたことを、隠そうともせずに淡々と話し続ける。
 一応、人の目が入らない席に着いたつもりだが、人の耳に戸は立てられない。
 だが、私は思う。
 なぜ、この程度のことが許されないのだろうかと。

「どうもね、最近は彼女も夢見がちになっちゃって。……まあ、私のせいなのかもしれないけど。
 洗濯機の渦を見続けていると、知らない間にその渦に引きずり込まれちゃうみたいな……そんな感じ」

 溜息混じりに愚痴をこぼして、少し冷めてしまったティーカップを仰ぐ。
 あちら側にある世界には、こちら側が捨て去った幻想の産物が無数に存在しているのだろう。
 曰く、人を攫う鬼。
 曰く、血を吸う鬼。
 曰く、不老不死の人間。
 ――曰く、空を飛ぶ人間。
 危険と言えば危険極まりないものに溢れ、こちら側の人間には太刀打ちすら出来ない偶像の数々。

 境界には意味がある。
 あらゆるものが合成で組み合わされた社会に対し、総てのものがあるがままで構成された世界。
 そこを越えることは、その均衡を崩すことに他ならない。

「……ねえ。あなたにとって、幻想と現実、どっちが一般解なの?」

 初めて出会った人間に、宇佐見蓮子は真剣な眼差しで問い掛ける。
 私は、とうの昔に決めていた答えを、素直に告げた。

 ――彼女からは、蓮台野と博麗神社の怪奇談を。






 次に、もう一人のメンバーであるマエリベリー・ハーンと接触する。
 宇佐見蓮子はメリーと呼んでいるそうだが、確かに私たちにはうまく発音できない。
 彼女もまた、初対面であるはずの私を警戒することなく、淡々と、自分たちの正体を明かしていく。
 それはきっと、私が信頼における人間だと思われているからではなくて。
 ただ単に、彼女らが未知のものに対して前向きに接しているからだと思う。

「――別に、大した能力じゃないと思うのよ。でも、見えちゃうものは仕方ないじゃない?」

 好奇心は猫をも殺すというが、なるほど、その程度の力が彼女らには備わっているのだろう。
 案外、夢の世界を掴み取るのは彼女たちのような人間かもしれない、と心の隅で悟る。
 ……私? いや、私はただの観測者で構わない。

「結界がある、ということが判っただけでも儲け物だと思うんだけど。
 蓮子はわざわざ拒絶しているものに近付きたがるのよね……。いえ、私も興味自体はあるのだけど」

 控えめに否定する。しかし本気かどうかは疑わしい。
 彼女は、夢の世界で手にしていたものを現実にまで持って来ていたという、貴重な経験の持ち主らしい。
 その際、とても愉しい体験と、非常に危い状況に追い込まれたのだそうだ。
 私はその話を興味深く聞く。

「夢も現も、私にとっては同じようなものなのよ。
 蓮子は違うと言うけど、あそこで私が走らなければきっと此処には居なかったでしょうね。
 あれが夢でも現でも、やっぱり私はあそこに居たと思うのよ。
 ……ただ、そうなるとひとつ問題が出て来るわ。
 私って……、一体いつ寝てるのかしら」

 彼女は本気で首を傾げている。どこまで真剣かはよく判らない。
 しかし、彼女の言うことは全て正解なのだろう。
 もし間違いがあるのだとしたら、それはきっと夢と現実の捉え方ぐらい。
 ここで正解を教えることは可能だが、その役目は私ではなく秘封倶楽部の代表に任せることにしよう。
 さっきも言ったように、私はただの観測者に過ぎない。
 天然の筍も食べてみたいとは思うが、それはまた別の機会に。

「ねえ――。あなたは、夢と現、どちらが好き?」

 初対面の人間にも、マエリベリー・ハーンは臆することなく突っ込んだ質問をする。
 私は、ずっと昔から考えてきた答えを、少し悩んでから答えた。

 ――彼女からは、紅い魔の館と紅く染まった竹林の夜話を。






 彼女たちが去った後も、私はしばらく店の席に陣取って、ぼんやりと思いを巡らせていた。
 テーブルには薄いメモ用紙があって、そこには彼女たちから聞いた幻想と現実、夢と現に関する考察がところ狭しと綴られている。
 宇佐見蓮子は最後に、私を秘封倶楽部へと勧誘したけれども、私は丁重にそれを断った。
 マエリベリー・ハーンは特に何も言わなかったが、私が軽く会釈すると彼女も素直にそれを返した。
 ……ただ、憧れだけが胸にある。
 夢にまで見た幻想に、彼女たちはその手で触れることができる。
 夢を現実に変える力など、彼女たちは初めから持っていたのだ。
 どこか安心した気持ちで、私は席を立つ。

 ――さて、これにて今回の考察は終了。

 何は無くとも幻想はあり、何が起きても幻想は揺るがない。
 もしかしたら、彼女たちさえもひとつの幻想なのかもしれない。
 私が勝手に生み出してしまった、幻想への挑戦者。
 まあ、極端な話、それが嘘でも真でもどちらでもいいのだ。

 何故ならば、夢は現実に変わる。
 彼女たちなら、夢の世界を現実に変えてくれるからだ。

 だからこそ、私は彼女たちとは違う形で、夢を現実に変えていければいいと思う。
 私の夢とは、実はその程度のことに過ぎないのである。

  ――――――――上海アリス幻樂団 総責任者




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『永遠亭の慌しいけど平穏な夜とその来訪者』




 いろいろと展開をはしょって、蓮子とメリーは永遠亭にやって来ました。
 そこにはたくさんのウサギやウサギやウサギやウサギがいます。
 しかも、大概の重歯類は人間の言葉を喋ります。

「あ、どうもいらっしゃいませー」

 奥の部屋まで案内してくれた、ブレザーとミニスカート、およびウサギの耳が付いている(生えている?)女の子など、完全に神がかったコスプレイヤーとしか思えません。
 なおかつ、『いらっしゃいませー』は流石にまずいような。性教育上。
 もしや貞操観念を放棄しているんでしょーか。よくやった。

「なんだかウチのお姫様も、最近はいろんな人が来るから毎日が楽しいみたいで」
「あ、そうなんですか……。ところで、その耳は本物なんですか……」
「……はい? まあ、そうですけど。それがどうかしました?」
「いや、どうかしましたかと言われても……」

 蓮子も困ってしまいます。
 メリーは、後ろに控えているワンピースを着たウサギの耳をわりと思いっきり引っ張っています。好奇心旺盛なのも考え物です。
 ひとしきり引っ張った後、満足したメリーにワンピースのウサギは笑いながら『殺したろか』と呟いていました。
 ウサギの皮を被った詐欺師の本領発揮です。でも、ここで逆上すると素行に問題ありと評されてしまうので、下っ腹に力を入れてぐっと堪えます。
 そんなこんなしているうちに、奥座敷にまでやって来ました。

「姫様、お客様がいらっしゃいましたー」
「そう。開けていいわよ」

 コスプレイヤー・優曇華院が襖を開けると、時代を何世紀か遡ったかのような着物を身にまとった、清楚な少女が月を見ていました。
 その隣りには、赤十字に関わりがあるらしい女性もいます。

「今宵は、どんな用件で? 何でも良いんだけど」
「まあ、適当に解説すると、うちのメリーには結界の境目を見る能力があってそのうじゃうじゃした境目に飛び込んでやってきた訳なんです。
 でも別に帰れなくなったというのでもなくて、どうせだから観光でもして行こうか天然の筍もあるしー、という気楽な大学生のノリで。
 難しいことばかり考えてるのもあれなので、たまにはこういうのもいいんじゃないかと。はい」
「あっそう」

 蓮子が丁寧に説明しますが、輝夜はあんまり興味を持っていないようです。
 メリーは、引き続きコスプレうさぎこと鈴仙のうさ耳をかなり洒落にならない強さで引っ張り始めました。
 後ろから『あ〜〜〜! やめてー! 取れるー!』という悲鳴が聞こえても、お姫様も赤十字社員も秘封倶楽部代表も全く気に留めません。
 鉄の意志です。というか無関心です。無残。

「……ところで、貴女たちの名前はなんて言うのかしら」
「私は宇佐見蓮子、後ろはメリー。本名は日本人には言いづらい名前なので、気にしなくても」
「判ったわ。うさみみ、ということね。
 ……なんてことかしら、妙な吸血鬼の言い分を信じる訳じゃないけど、 なんだか運命に翻弄されてるっぽい雰囲気がそこはかとなく漂ってる気がしない? 永琳」
「左様でございますね」
「いや、うさみみと違いますし」
「いえ、うさみみよ」
「否定されても」
「難しい言葉でいうと、アカシックレコードにおける貴女の真名はうさみみれんこーということなっているのよ。多分」
「うさみみれんこーってあんた……」

 突拍子もない発言に、流石の蓮子も敬語を忘れます。
 半信半疑の蓮子に、メリーが輝夜への賛同の言葉を述べます。鈴仙の耳を引っ張りながら。

「あら、私は充分にあり得る話だと思うけど」
「いたたたたたたたッ! 取れるー! 外れるー!」
「……やっぱり着脱可能なの? バイト代は? 勤務拘束時間と夜勤手当は?」
「知りませんー! というか支払われてないです給料なんてー!」
「な……。まさか、タダで働いてるの!? そんな格好をして、うさみみとブレザーとミニスカートまで付けて……!」
「メリー、かお真っ赤だから。落ち着きなさい。はい、深呼吸ー」

 無駄にヒートアップしている相方を冷却して、蓮子はこれまたテンションが高めにキープされている輝夜に向き直ります。

「じゃ、私たちは帰ります。こんなに月も紅いので」
「別に紅くないから帰らなくてもいいわよ。
 それに、これを見てもまだ帰りたいと言える……?」
「な……!」

 うふふふふ、と不気味に笑いながら輝夜が取り出したのは、なんとメリーから何故か説教されている鈴仙の頭に付いているような立派なうさみみだった――!
 カチューシャに付属として付いている、ふたつのふよふよとしたうさみみ。
 レア物とも言えるし、なんかもう妄想が行き詰った執念みたいな物体とも言えるでしょう。
 正味な話、ふつうに生きていればこんなものにはお目に掛からずには済みます。

「そ、それは……!」
「驚いた? 
 ……これはね、うちの永琳が私にってプレゼントしてくれたものなんだけど。
 私としてはやっぱりねこみみが基本だろうと思って、しばらく放置してたのよ」
「お似合いだと思いましたのに……」

 ここぞという時にしか言葉を発しない赤十字の頭脳、永琳。
 しかし発している内容が内容なので有り難味はあんまりありません。

「てな訳で」
「夜もヒッパレも始まりますのでさっさと帰ります」
「駄目よ、うふふ今夜は楽しい夜になりそうね」
「いや、台詞ぱくってるし……。ていうかだからうさみみれんこーって意味わかりませんってー! そんな嬉々として迫って来てもだめー!」

 きゃーきゃー可愛らしい悲鳴をあげながら、輝夜の猛攻をすんでのところで回避し続ける蓮子。
 ちなみに、メリーは鈴仙に説教しています。どうも無給で働いているところが気に喰わなかったようです。
 その話を聞いている鈴仙はなんだか涙ぐんでいて、『わたし……間違ってました』とか何とか、最後にはメリーと抱き合っちゃったりしてまあ。
 そんな二人を永琳が生温かく見詰めながらスケッチを取っていて、いつの間にか横に控えていたてゐと売却ルートについて話し合っていたりしました。

 結局、もう一人のうさみみが永遠亭に加わったという、ごくごく在り来たりなお話。

「……いや、別に付けたいから付けた訳じゃないっていうか、無理やり装着されてその隙に既成事実を作られたというか……。
 だからそこスケッチを取るなぁ――!」

 蓮子のうさみみもふよふよ漂う、永遠亭は今日も平和です。
 多分、蓮子以外は。




−幕−
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