と、ある一日について
閃光のような煌きと、追随して襲い掛かる衝撃と。
美しく、凛々しい剣士に立ち向かいながら、俺は彼女と剣を交えられることを心から嬉しく思う。
一度は失いかけたものが、自分の隣りではなくても近しい立場にあるというのは、やはり幸せなことんだろう。
ふっ――と小さく息を吐いて、上段の斬りを捌く。とはいえ、完全に勢いを殺せるはずもなく、体がほんのわずかに揺らぐ。そこを、強い踏み込みと同時に下段からの逆袈裟が走る。
「――っ!」
回避は不可能。せめて柄下で受けとめる。
素直な一撃は柄に命中し、俺の甘い考えと共に右腕ごと竹刀を跳ね上げた。再び正眼となった彼女の正面には、全身がらあきの俺がいる。
「しまっ――」
くっ、と喉元に突きつけられる切っ先。あと一歩、もう一押しで呼吸が停止するという瀬戸際に立たされてもなお、俺は彼女から眼を離すことが出来なかった。
「――王手」
鈴を鳴らすような、詰みの一声。
……ああ、それは確かに。
たった今、俺を完膚なきまでに制圧したこの少女が、かつてイングランドを統治していた王であったことは疑いようの無い真実であり。
「――降参。今のところは」
万歳をした体勢のまま、降伏を宣言するしかない自分が、かつて彼女と共にひとつの戦争を戦った仲間であるのも、信じられないことではあるが――確かな事実であったりする。
彼女――セイバーは残心を解き、ふうと小さく息をついて竹刀を収める。
「……シロウ。私が言うべきことではないのかも知れませんが、稽古に身が入っていないのではありませんか」
「いや、そんなことはない、けど」
肩で息をしながら返答する。無論、セイバーの呼吸は俺とは比べ物にならないほど穏やかだ。稽古を始めた時と、顔色も心拍数も変わっていないように見える。
――そう、何も変わらない。
白いシャツと蒼いスカートを身にまとい、彼女は今も自分の近くにいる。尤も、彼女の現在のマスターは遠坂なのだけれど、旧マスターの縁もあってか、たまにこうして稽古を付けてくれるのだ。
自分はというと、あのいけ好かない赤い外套の太刀筋を真似るのがどうも気に入らなくて、改めてセイバーに基礎から学んでいる。
しかし、行き着く戦闘のイメージには常に赤い外套がある。
それも仕方ない話かもしれない。あいつは凡人だった、だから基礎を何度も何度も重ねて積み上げることでしか、遥か彼方の望みに辿り着くことが出来なかったのだ。
結局、その望みが果たせたかどうかは最期まで判らなかったけれど。
その生き様が、決して間違ったものではないと――。
「……シロウ?」
気が付けば、セイバーが不安げに俺の顔を覗き込んで――って、そんなに近付くなって!
「あっ、別に何でもないぞ! セイバーが心配してるようなことは、何ひとつ、うん」
「…………まあ、シロウがそう言うのなら構いませんが。稽古も一段落付きましたから、休憩に致しましょう」
「ああ、うん。そうだな」
落ち着かない口調で、なんとか言葉を返す。……まずい、まだ心臓がばくばく言ってる。
全く、俺もいいかげん慣れろと思うのだが、なかなかどうしてセイバーには慣れてくれない。
なにせ、その気品と美貌たるや人形のそれと遜色ない。遠坂みたいに格調高い表情の裏にプラスチック爆弾とかを秘めているのでもなく、ただ単純に、真っ直ぐな生き方そのものが凛々しく、美しい。
だから――という訳ではないが、セイバーと打ち合っているときはまだしも、こう、上目遣いなどされたり吐息が身体に掛かるくらい接近されたりすると、無性にどきまぎしてしまう自分がいるのである。
……うう、大丈夫か俺。こんなところを遠坂に見られでもしたら、遠坂邸の庭に埋められて固有結界のダシとか取られるんじゃなかろうか。
「早く行きましょう、シロウ。幸いにも、凛の姿は無いようですし」
「確かに。……って、俺はともかく、どうしてセイバーが『幸いにも』なんだ?」
「――あ、いえ。特に意味はありませんが」
セイバーは顔を背けて、あからさまにお茶を濁す。……むう、セイバーみたいに主従関係を重んじる人間が、安易にマスターの不在を喜ぶとは……。
何か、ある。
どことなく慌しげに竹刀を片付けるセイバーを見て、俺は得体の知れない確信を得たりしていた。
時刻はちょうど午後三時。間食を取るには都合の良い時間帯だ。
休憩を終えればまた稽古をつけてもらうのだから、あんまりたくさん腹に詰め込むのも良くないが、少しくらいは空腹を満たしてもいいだろう。
居間に戻ってきても、セイバーはすぐに座ろうとしなかった。
それをちょっと不思議に思いながら、言われないと座らないなんて律儀だなあと勝手に結論付ける。
「ああ、座っててもいいから。飲みものと、お茶請けくらいは出すし――」
何かあったかなー、と踵を返そうとした俺の背中に、多少なりとも緊張したセイバーの声が。
「お待ちください、シロウ」
「……うん?」
振り返れば、そこはかとなく真剣な顔をしているセイバーがそこにいる。
まあ、セイバーはいつも真面目だから別におかしなことではないのだが、今回のはちょっと気色が違うというか、セイバー自身その緊張に慣れていない感じがする。
「実を言いますと、今日のお茶請けは私が用意いたしました」
「あ……そうなの?」
「はい。では早速準備したいと思いますので、シロウは待っていてください」
「あ――そうなんだ」
それでは、と台所に姿を消すセイバー。
狐につままれたような感覚のまま、言われた通りに座布団を敷く。
……ということは、今日はセイバーがお茶を淹れるのか。
結構長い付き合いだけど――それでも一ヶ月と経っていないのだが――、こう役割が逆になるのは珍しい。マスターとかサーヴァントとかいう記号を抜きにしても、俺たちはどちらも働きたがりだから、動くのはどっちかに集中しやすい。
セイバーもたまにお茶汲みを買って出るのだが、形の上とはいえ、お客さまにわざわざそんなことは出来ない。そう言うと、セイバーもぐうの音が出なくなるのだ。……まあ、本音を言えば、俺が俺のやりやすいようにお茶を出したいから、セイバーの好きそうな飲みものやお茶請けを出したいからなのだが。
たぶん俺は、不純な動機ではなく――ただ単純に、セイバーの嬉しそうな顔を見るのが好きなんだろう。
これまた遠坂に聞こえたら容赦なくガンドをぶちかまして来そうな告白だけど……。
見苦しく誤魔化すよりは、素直に吐露した方がいくらか楽というものだ。後の拷問が。
「――お待たせしました」
不意に先の地獄まで先読みしてしまった自分を解き放ったのは、さっきよりは幾分か落ち着いたセイバーの声だった。
彼女はお盆を持ち、自分の席に座ってから湯飲みとお茶請けを並べる。
向かい合った俺とセイバーの間にちょこんと乗っかっているのは、見紛うことなき江戸前屋の羊羹だ。流石に一本丸ごとは辛いと思ったのか、原本の三分の一くらいに分けられているが、その単色なれど豪奢な外見は江戸前屋の高級和菓子と見て相違あるまい。
衛宮家ご用達、そしてセイバーひいては遠坂家までご贔屓にしているという和菓子といえばこの店、江戸前屋。……まあ、それ以外にめぼしいお菓子屋が無いというだけの話だったりもするが。
羊羹のみならず、和菓子は陶器に添えられるとより外観が際立つ。
うちにある皿は、陶器と呼べるほど大した代物ではないが、それでもやはりある程度は和菓子の魅力を引き立たせてくれる。
漆を塗ったような滑らかな肌は、傷付けることさえ躊躇ってしまいかねない。
しかしながら、その表面はセイバーによって既にずんばらりんと切り分けられており、俺の不慣れな考察もそこで呆気なく潰えてしまったのだった。
「なるほど、セイバーはこれを出したかった、と」
「はい。間食には少し重いかと思いますが」
「うん、でもそんなに量は多くないから大丈夫なんじゃないか? ……それにしたって、言ってくれれば羊羹ぐらい用意してあげたのに。そんなに貧乏に見えるか? うちって」
まあ、幾分かグレードが落ちることは覚悟しなければならないが。
「あ、いえ……! 決して、そのようなことはありませんが」
『が』ということは、やっぱりちょっとそんなふうに見えるという意味だろうか。
狼狽しまくって、お茶を零しそうになるセイバーを細目で観察する。
「とにかく、どうぞお召し上がりください。さすがは江戸前屋、良い仕事をしています」
「……そういうの、一口でも食べた後に言うもんじゃないか?」
「――と、私の直感がそう言っていました」
てなことを、わりと真剣に述懐する。
俺をもてなす立場にいるからか、羊羹に自分からは手を付けない。ささ、どうぞどうぞと悪代官とつるむ越後屋みたいな手付きで、俺の食を促す。
なんとなーく怪しい素振りが気にはなるが、とはいえ用意してくれたのはありがたい。その心意気に免じて、裏があっても無くても素直に羊羹を食べることにしよう。
ぷす、と爪楊枝で漆黒の切れ端を突き刺し、最短距離で口に運ぶ。その経過をセイバーにじっくり観察されていても気にしない。
「……ぅぐ、うん。うまい」
素直にそう告げる。
なにせ、セイバーがじっと俺の目を逸らさずに見詰めてくるものだから、何か感想でも言わないと間が持たないのだ。実際、こしあんの甘い食感に脳まで蕩けそうになったりしたが、美食家でもないのにそんな判りやすいのかどうかよく判らない感想を述べたところで始まらない。
でも、俺のつたない感想に満足したのか、セイバーの顔が目に見えて明るくなった。
別にセイバーがいちから作った訳じゃないにしろ、接待して喜ばれるというのはやっぱり嬉しいものなんだろう。まあ、最初から自分で料理を作って、そこで賛辞を貰えるというのもまた格別なものがあるが。
「そうですか。それは、良かった」
「ん。セイバーも食べるだろ、さすがに俺ひとりだと量が多いしさ」
「……そう、ですね。シロウがそう言うのなら、私も遠慮なく頂きます」
爪楊枝を摘まみ、小さく頭を下げてから、セイバーは黒く甘いあんこの柔肌を堪能した。
もきゅもきゅ、という咀嚼音が聞こえてきそうなくらい幸せそうに、セイバーの顔はいつになく緩んでいる。無論、それなりに節度を保った凛々しい表情をしているものの、一ヶ月といえどセイバーとの付き合いがある俺からすれば、今の彼女が幸せの絶頂にいることなど容易く看破できるのである。
「……ふむ、うん。やはり、さすがは江戸前屋のテツと言ったところでしょうか」
「職人さんまで」
「常識です」
それは多分違うと思う。
セイバーが口の中に広がったあんこを存分に味わい、嚥下したのを確認してから、俺は再び抜き身の爪楊枝で美しい羊羹を陥れる。
今度こそセイバーも躊躇うことなく一切れの羊羹を陥落させ、実にほのぼのとした間食タイムがここに成立した。
……本来、うちの食卓はそう騒がしくない。
一部、騒ぎを撒き散らしている人材もいることにはいるが、それも年長者なりの配慮っぽい。だから、藤ねえもおらずセイバーと二人きり、というある意味ではちょっとヤバイんじゃねえのこれ、てな状況にあって、多少の緊張はして然るべきなのだ。つーかしない方がどうかしてる。
セイバーも、初めのうちからやや身体が堅かったが、羊羹を頬張ってハムスターみたいになってる今では全身が弛緩していると言っていい。そんな彼女を見ていると、自然に緊張も解れてくるから不思議だというか――。
「ところで」
あからさまに話題を変えようとするセイバーの目論見。
しかし、俺は黙ってその波に乗る。
「この国には、二月十四日に何かしら特別な行事があるという話を聞きましたが」
「……ああ、あるな」
ひょい、ぱく。
セイバーの手が神速を超える。
目を離した瞬間、皿の上から一切れの羊羹が消えている。
「でも、もう三月に入ったからなぁ……。そういう時節もののイベントなんて、過ぎてしまえば来年まで忘れ去られるもんだけど」
「……そうなのですか?」
ほんの一瞬、セイバーの爪楊枝が止まり――。そしてまた即座に手首のスナップを利かせ、最短距離で羊羹を補給する。
俺の目を真剣に見詰めながら、手は爪楊枝を摘まみ羊羹を掬い取る。思考と行動がほぼ乖離しているという驚愕すべき事実にも、『まあセイバーだからなー』と納得できるのは正常な感覚なんだろーか。
「それが、どうかしたのか?」
「いえ、他意はありませんが」
爪楊枝をくずかごにそっと投入し、湯飲みを優しく撫でるように掴む。
音も立てず、静かにお茶を啜っているセイバーの清楚な挙動に、大きな不和は存在ない。
でも、なんかやっぱり違う気がする。
彼女の中にあるだろう、ほんの些細な違和感を躍起になって見付け出そうとしたから――。
セイバーが不意にこぼした、小さな独り言にも気付けなかったのだ。
「……餡もカカオも、栄養としては同じですからね」
「…………え?」
「――いえ。何でもありません」
慌てて問い返しても、二度とその答えが返ってくることはない。
それを知りながら、やっぱり心のどこかで答えを期待し、セイバーの瞳をじっと見続けているのは……男としてどうなのかと思う。……正直、情けない。
でも、仕方ないじゃないか。
バレンタインにこんな感じでチョコを貰うことなんて無かったし、一体どんな対応をすればいいのか全く判らないんだから――。
藤ねえは基本的に食い気が勝ってるし、桜からも貰ったことはない。もしその二人から貰っていたとしても、今と同じようにどぎまぎしていたに違いない。その想像は、男として致命的に不甲斐ないもので、俺の肩を落とすに充分な破壊力があった。
だから――だと思う。
セイバーが、心配そうに言葉を掛けてくれたのは。
「……そのような、情けない顔をしないでほしい。これでは、私が貴方を腑抜けにしてしまったみたいではありませんか」
「ご、ごめん。やっぱり、セイバーにもそういう風に見えたのか……?」
「はい。この世の終わりかと思えるくらいの意気消沈ぶりでした」
「……そこまで」
「そこまで、です。
――勘違いしないでほしいのは、この羊羹は単なる差し入れだということ。修行の休憩にひとつまみするくらいの、ほんの些細な間食です。そこに、何も天地が覆る程の意味合いが込められているとは、私には到底思えない」
凛とした口調で、正座した膝に手を置いたままで、セイバーは訥々と語りかけてくる。
不甲斐ない俺を叱咤する、という意味だけでなく、自分に言い聞かせているような雰囲気も確かに感じられた。だからこそ俺は、茶々を入れないで静かに耳を傾ける。
「ですから、シロウもあまり気負わないで頂きたい。でなければ、休憩の意味がないではありませんか」
「……だな。お互いの動きに一挙一動するのは、鍛錬の時だけで充分だし」
「そういうことです。理解が早くて助かります」
「でも、これだけは言わせてくれ」
……なんでしょうか、と神妙に問い返される。セイバーは、再び爪楊枝を引き抜こうとした指を止め、膝の上に巻き戻す。
その律儀な挙動に苦笑しながら、俺は言いたかったことを素直に言った。
「羊羹、うれしかった」
一瞬、音がとまる。
正確には、羊羹ではなくてそれを用意してくれたセイバーの心遣いに感謝しているのだが、そこまで口にするのはどこか躊躇われた。
「――それは、僥倖です。テツさんもエビ反りしながら喜ぶことでしょう」
この際、テツさんは関係ないと思うのだが、まあセイバーがそう言うんならテツさんには犠牲になってもらおう。すまない。
「うん。……でも本当、セイバーが羊羹持ってきてくれて、助かったよ。うちじゃ滅多に食べられないからな……。年がら年中成長期の大トラがいるから」
「む。大河はそこまで飢えているのですか。シロウの懐を圧迫死させかねない程に」
「単に燃費が悪いんだろ。もしくは、食えば食うほどに強くなるという、謎の中国拳法をマスターしているとか……」
ごくり、とどちらともなく唾を飲み込む。
そういえば、ベンガルトラなんていう凶暴なのも中国には棲息しているらしい。きっと、藤ねえの起源はチョモランマの方角にあるとみた。
「四千年だからなあ……」
「四千年ですからね……」
遠い空を眺めれば、蒼く眩しい色彩が目に飛び込んでくる。
セイバーは四千年どころじゃない昔に生きた存在なんだから、別にそんなに驚く必要もないと思いのだが……もしかして、話を合わせてくれたのだろうか。気の利く英霊さんである。正確にはちょっと違うっぽいが。
「――さて。それでは、修行に戻りましょうか」
「ああ、もうそろそろかな」
いつの間にか、用意された羊羹は既に無くなっていた。確かに美味しかったことは覚えているが、その味を事細かに描写しろと言われても、困る。
だって、主に食べていたのはセイバーだったし……それに。
この羊羹が意図する意味を、あまりに深く受け止めてしまったから。
俺は和菓子の味よりも、セイバーとこうしている瞬間そのものを強く記憶に刻んでしまったようだ。
セイバーは空になった皿と湯飲みを盆に乗せ、台所に消える。どうせだから、今だけはセイバーの好意に甘えておくことにした。
帰ってきたセイバーは、午前中に俺を圧倒した剣士の雰囲気そのままに、凛々しく宣言する。
「休息も終わりましたので、これからはいつもの私たちに戻りましょう。少々時間を使いすぎてしまいましたから、その分ペースを上げていきます」
「うぇ……ほ、本気か? アレ以上加速したら、骨が擦り切れること請け合いだと思うんだが……」
「ご心配なく。シロウなら、きっと切り抜けられると信じています」
何の根拠があるのか、セイバーは自信満々に微笑んでみせる。俺とは比べるべくもなく実力を持ったセイバーに言われてしまうと、俺も二の句が告げない。というか、こういう信頼は嬉しいんだか悲しいんだか……。
……でも、まあ。
「よし。覚悟を決めて、後半戦いくか」
「はい」
かつて戦友だった少女は、俺の返事に力強く応える。
いつか、戦友ではなくただの友人として、昔のことを笑って話せる関係になれたら、それはどんなにか素敵なことだろうと思う。
セイバーがサーヴァントである限り、それは叶うことのない望みなのかもしれないが――。たとえそれでも、俺は願わずにいられなかった。
道場に向かう廊下を先に歩き、後ろからついてくる小さい足音を聞く。
油断のない歩法を耳にして、この少女の半分はまだ戦場を駆けていることを自覚する。
だから――とかいうのは、言い訳かもしれない。
俺はセイバーがどうだからって訳じゃなく、今日のお返しとして、純粋にその提案をしたのかもしれない。
今となっては、そのときの自分が何を考えていたのかは判然としないが。
――ふと思い付いて、セイバーに振り返る。
きょとん、と不審そうに俺の顔を覗き返すセイバー。
その顔を見て、もう後には引けないと覚悟を決める。
「……? どうしました、シロウ」
もしかしたら、セイバーもこんなに緊張していたのだろうか。
その答えも出ないまま、俺は考え付いたことを修飾もせずに公開する。
「なあ、知ってるかセイバー。
日本では、三月十四日にとある特別な行事が予定されているんだが――――」
−幕−
SS
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