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当然のことながら、俺の部屋の家賃は俺が払っている訳だ。 俺一人が住んでいるのなら納得も出来るが、人口密度が二倍になると様々な問題が浮上して来る。 家賃やら、食費やら、居場所やら、気の遣いようやら、プライベートな一次接触やら、数え上げれば切りがない。退屈はいくらか紛れるだろうが、それもいつかは飽きるだろう。 「全く、厄介なもんを背負い込んだもんだ……」 ずるずる。 「全くです、まさかこんなに知能指数の低い人が入居して来るとは……」 ずるずる。 二人仲良く、市販のカップヌードル(熱湯四分)を啜っている。何は無くとも、腹は減るものだ。外もとっくに暗闇が落ちていて、遠くに光るビルの明かりがやけに目立つ。 「一介さん」 「何だ、居候幽霊」 「ひとをヒモみたいに言わないでください」 「ヒモだろ」 「違うっつの」 ずるずると、塩味の麺を一気に啜る。幽霊のくせに、しっかりと物に触れると言うのも妙な話だ。 「お分かりのことと思いますが、私は前からここに住んでる訳です」 「さっさと成仏しろ」 「断る」 断られた。 しかも、はっきり俺の目を見て拒絶しやがった。 流れから行くと、ここに住むより俺と一緒に居る方が嫌みたいな感じだったのだが、俗に言う地縛霊という奴なのかもしれない。現代語に訳すとニートだろうか。 「まあ、それはともかく」 「幽霊にあるまじき発言だな」 「ともかく! 人生経験、在籍年数、社会通念、人間の格やら容姿・体型等総合的なスタイルやら、その全てにおいて私は一介さんの上を行っているのですから、可及的速やかに敬語を使ったり恐れをなして土下座したりするといいですよ」 と、適度にふっくらとした胸を張り、再びラーメンを啜り始める。 安い格だった。 「はなこ……いや、花子さん」 「何でしょう?」 「お前はバカか」 箸が飛んで来ました。 危うく眼球に突き刺さるところだったぜ、危ない危ない。 「いきなり何てこと言うのよ! この露出狂!」 「妙な性癖をドッキングするんじゃない!」 というか、こいつはこれが素なんだろうな。ですます言ってるのは飾りか。 まあ、どっちでも良いんだが、どちらかと言うとこっちの方が自然体ではある。 若干、俺の致死率が高まりそうだが。 「はあ……。ったく、こんなんが一緒だと、いつ襲われるのか気が気じゃないわよ……」 「なんだ、襲われたいのかお前。それじゃあ早速」 そう言って腰を浮かした直後、下腹部に凄まじい衝撃が走る。 何を隠そう、テーブルの下から花子の足が俺の股間を物の見事に捉えているではないか! 凄え。 それと、言い忘れていたがあの非常に痛い、というか身悶えるよな。 「ぐ……」 崩れ落ちる。 視界が暗転しそうになり、畳に額を擦り付けながら意識を保つ。摩擦熱で顔面がやたらと熱いが、文句は言ってられない。 「ラーメン伸びますよー」 貴様、まさかそれが目的で……! 怖いなあ、女って……。 痛いし……。 「食べちゃいますよー」 とか何とか言ってる間に、俺の塩ラーメンに手を伸ばす花子の邪悪な笑みが垣間見える。 ……くそぅ、いつかお前の(検閲)に(以下略)からなー。 「
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